今年7月に熊本を襲った集中豪雨に象徴されるように、最新の予知科学を駆使しても災害の正確な予測は困難だ。しかしその一方で、昔から日本人は自然の変化から天災を予見し、命を守る知恵を伝承してきた。
各地に伝わる俚諺と呼ばれることわざには、自然や生物、井戸水などの変化を災害の前兆現象とするメッセージが多い。その中には「かなとこ雲」などの気象現象も。
「観天望気を身につければ、スマホの電源や電波を失った場合も、空模様から気象変化を予知できます。が、一部マニアに支持される“地震雲”は科学的裏づけがなく、気象庁もその存在を認めていません。巨大地震前に電離層に異常が起こることが指摘されていますが、雲をつくるしくみは考えにくいといわれています」
そう話すのは、気象予報士で空の写真家の武田康男さんだ。
「危険な雲といえば、竜巻を起こす漏斗雲や、大きな積乱雲でしょう。単発なら局地的大雨(ゲリラ豪雨)、積乱雲が次々発生すると、線状降水帯となって災害を引き起こすことがあります」(武田さん)
ことわざは、類似の俚諺が違う土地でも存在するから興味深い。全国各地の俚諺を紹介しよう。最新予知科学とともに参考にしたい、先人からの実践的防災知恵袋だ。
【株虹は地震のしるし(四国各地)】
株虹(かぶにじ)は根元だけが見えている虹のこと。ほかに、「地震の前に白い虹」(和歌山県)、「水吸(株虹)の出現は大水のもと」(埼玉県)、「夕虹は百日の照り、朝虹は川越すな」(山梨県)など、虹に関する言い伝えが全国に多数ある。
【雉、鶏が不時に鳴くと地震がある(愛媛県)】
キジ(雉)もニワトリ(鶏)も朝鳴くことから、いつもとは違う時間に鳴くのは地震が起こる知らせであるという言い伝え。ほかにも地震とキジを結びつける言い伝えは多く、「キジが三声続けて三度叫ぶと地震あり」(福島県)、「キジのおどろき声は地震のある前ぶれ」(長野県)、「地震の直後キジが鳴かざるときは、再び大地震が来る」(各地)などがある。