沈黙を守る中島みゆき(68才)の周辺が騒がしくなっている。今年1月にスタートした「中島みゆき ラスト・ツアー『結果オーライ』」が新型コロナのため2月28日より全公演中止に。周囲の関係者は「このまま引退の可能性も」と気を揉む毎日だという。
そんな折、世の人の心を強く揺さぶった中島の歌がある。
《泣きそうになった。すごいよかった》
《涙が出た。励まされた》
SNSを絶賛で埋め尽くしたのは、8月26日放送の『2020 FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ系)で満島ひかり(34才)がカバーした「ファイト!」だ。澄み渡るミントブルーのワンピース姿で、全身全霊を込めて歌い上げた満島の表現力はもちろん、つらい立場にいる人々にエールを送る歌そのものの力が多くの人の胸を打った。
1983年にリリースされた「ファイト!」は満島のほか、吉田拓郎(74才)、櫻井和寿(50才)、福山雅治(51才)ら錚々たる面々がカバーしてきた。現在公開中の映画『糸』でも、その曲は2度出てくる。思い通りにはいかない人生を嘆くかのように、榮倉奈々(32才)と成田凌(26才)がそれぞれ力を込めて歌い上げる。
この映画は中島の名曲「糸」をモチーフにしているが、観客からは「劇中で流れる『糸』もよかったけど、『ファイト!』の熱唱シーンに感動した」「あらためて『ファイト!』の歌詞にドキリとさせられた」との声が寄せられる。聴けば聴くほど人生の重みを感じる中島の歌詞。彼女は、コピーライターの糸井重里氏との対談で創作方法についてこう述べている。
《この感情は子どもの頃にもあったなと思い出すわけです。昨日のことは忘れても、子どもの頃の気持ちが鮮明に甦ることもあるでしょ。そういうことも歌を書くひとつのきっかけですね》(『ダ・ヴィンチ』2020年3月号)
中島は雪深い北海道生まれ。祖父は市議会議員を長く務め、父は産婦人科の開業医で、幼い頃は父の勤め先の都合で道内を転々として育った。そのため少女時代はひとり遊びに興じることが多く、友達の輪に入れない内気な女の子だったという。
進学した高校は封建的で、「女は口を出すな」との雰囲気が強かった。だが高校3年生の文化祭、中島はひとり、ギターを抱えて舞台に上がり、弾き語りをした。女生徒が舞台に立つのは前代未聞。会場から激しいヤジが飛ぶなか、思いの丈を歌いきった。札幌市にある藤女子大学文学部国文科に進学後、本格的に音楽活動を始め、数々のコンテストを総なめにしたが、卒業後は実家に戻って父の病院を手伝った。
「開業医といっても生活は苦しく、みゆきさんとお母さんが病院で働いて家計を助けていました。みゆきさんの弟は父と同じ医師をめざしていたから、その学費を捻出する必要もありました。
当時の北海道は閉鎖的で男尊女卑的な風潮が残り、女が家計を手伝って、弟の出世を助けるのは当然とされました。『コンテスト荒らし』と呼ばれ音楽の才能があふれていたみゆきさんは家族の幸せを望む一方で、自分を犠牲にせざるを得ない状況にやりきれない思いがあったでしょうね……」(中島を知る音楽関係者)