オレゴン州を中心に広がっている森林火災は、近年にない規模になっている。すでに500万エーカー(約2万平方キロ=関東地方の3分の2に相当)の森林が焼け、行方不明者は数十人にのぼっている。今も新しい火の手はあちこちで上がっており、今後も被害は広がると予測されている。そしてこの未曽有の大災害は、アメリカ社会に別の火種も生んでしまった。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
* * *
この火災が前代未聞なのは、その規模だけではない。アメリカでは大規模な森林火災のニュースはさほど珍しくはないが、今回は大統領選挙の真っただ中ということもあり、右派と左派の激しい対立に発展しているのである。怪情報がSNSなどに大々的に流され、混乱は広がるばかりである。
仕掛けたのは右派だった。「この山火事は極左の活動家が火をつけて回ったことで起きた」という全米を震撼させるデマゴーグが、TwitterやFacebookで火の手のごとく広がり、それを信じる周辺地域の住民たちは、銃を構えて自己防衛に立ち上がった。「怪しい人間を見かけたら、ちゅうちょせずに撃ち殺す」と公言する住民までいる。
行政当局や地元警察、FBIまでがこの不穏な動きを無視できなくなり、デマを否定し、こちらの火消しにも必死になっている。全米で繰り返される人種差別反対デモが社会不安の根底にあることは否定できない。差別の問題とは直接関係なく、デモに乗じて暴動や略奪、強盗といった凶悪犯罪が起きていることは事実だからである。右派と左派は互いに相手に原因があると非難し合っている。もし、双方が銃を持って対立するような事態になれば、警察だけでは収拾できなくなる。
デモの現場では、警官が黒人に暴行したり発砲したりする事件も多発している。捜査の結果、警察の主張が否定され、違法に黒人を虐待したとされる事例も相次いだ。しかし、右派を支持する白人グループなどは不満を募らせている。暴動を起こす人たちのなかには、黒人などマイノリティも多くいる。暴徒を警察が力で制しただけだという言い分である。このままでは、人種差別がなくなるどころか、白人とマイノリティの対立はますます激化しかねない。最悪の場合、市民同士の市街戦が起きる危険も高まっている。