主人公の一人・椿を演じる横浜流星(時事通信フォト)
和菓子の老舗を舞台にした復讐劇『私たちはどうかしている』(日本テレビ系、水曜22時〜)が話題だ。エキセントリックな登場人物たちが繰り広げる愛憎劇に、熱狂的なファンが増えている。ドラマオタクを自認するエッセイストの小林久乃氏もその一人だという。
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『私たちはどうかしている』(以下『わたどう』)を、どうかしているように楽しみにしている。昭和のドラマ放送では当たり前だった、大映系、昼ドラ系のドロドロさ。そして唐突な展開の連打は、見ていて全く飽きない。ただの趣味趣向からの推しではあるけれど、そこに男女が抱える「パートナーが見つからない(泣)」という永遠の問題の解決策を見出した。
椿の“どM”ぶりから見えた男の可愛らしさ
老舗和菓子屋・光月庵の後継者、高月椿(たかつき・つばき/横浜流星)は肉親からの愛情には一切恵まれないまま育ち、家に逆らうように、初めて会った花岡七桜(はなおか・なお/浜辺美波)を結婚相手に決めてしまった。これは、将来自分だけの城=店を築きたい、という彼の反発心からだったように思う。ちなみに七桜は、かつて母に着せられた汚名を晴らすために、偽名を使い光月庵に潜り込んでいる。
椿は孤高の人である。ドラマを見ている限りでは友人の姿はないし、心を許せる存在は今のところ七桜のみ。彼は『光月庵』の後を継ぐため、常に和菓子のことだけを考えていて、ついには「あんこは自分を写す鏡だ」と、セリフで豪語していた。
あんこにはタイマンで向き合うことができるのに、人にはどう接したらいいのか分からず、つい冷たい対応をしてしまう。そんな椿の態度を見ていると、明らかに“どS”の印象が強い。でも勘のいい視聴者なら察している人もいるはずだが、椿は“どS”と見せかけて“弱い男”であると私は思う。
その現れとして、七桜と一夜を共にした第四話あたりから彼女に対する対応が顕著に優しくなっていく。バックハグをはじめとする、スキンシップの回数も増えた。今は隠しているけれど、もし七桜が自分の子どもを身篭っていると知ったら、大手を振って喜ぶだろう。ハマったら最後、心を溶解させた相手には(他人に)見せたことのない自分を大公開する、強がる割には“弱い男”なのだ。実は私もこのタイプなので椿の気持ちが痛いほどわかる。