「医療費」を考える時に、見逃してはならないのが、「歯科治療」のお金だ。治療が長期に及んで出費がかさむケースが少なくないし、費用が大きく異なる選択肢が示されることもある。だからこそ、治療費の差で、どんな違いが生じるのか、患者自身が知っておきたい。『週刊ポストGOLD 得する医療費』より、ジャーナリスト・岩澤倫彦氏(『やってはいけない歯科治療』著者)がレポートする。
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歯科医院の初診で、必ず確認されるのが「保険の範囲か? 自費も検討するか?」である。この問いに、迷った経験を持つ人は多いのではないだろうか。
がん治療など医科の保険診療は、有効性が確認された現時点で最適な薬や治療法だ。一方、歯科の保険診療は事情が少々違う。最も重視されるのは、コストパフォーマンスのバランス。全国どこでも同じ水準の歯科治療が、安く受けられるが、患者にとって「最適」な治療とは必ずしもいえない。
さらに治療によっては、保険診療の点数(=治療費)が、驚くほど安く設定されている。歯科医院は治療費が安い分、短時間でたくさんの患者を治療しなければ経営が成り立たない。結果として、安すぎる保険診療は、手抜きや質の低い治療を招く温床となっているのだ。
これまで、ベテラン歯科医がレントゲン画像を見て、溜息をつく場面に遭遇してきた。他の歯科医による手抜き治療が一目瞭然だからである。
歯を残す最後の砦、というべき「根管治療」。歯の根から感染物質を除去する治療だ。保険診療の費用は、1歯あたり数千円から1万円程度。一方、マイクロスコープという医療用顕微鏡を使用した自費診療は10万~20万円と高額になる。しかし、10年後、保険で治療した歯を失い、自費は歯が残っているとしたら、どちらが本当に「お得」なのだろうか?
患者としては、初診時に保険と自費の違いを丁寧に説明してほしいところだが、「儲けたい営利主義の歯医者」という誤解を受ける可能性を恐れて、大半の歯科医は説明に消極的だ。 そこで本稿では、「保険と自費」の違いとは何なのか、費用、素材、治療内容、治療後の経過まで徹底比較した。