【書評】『俳優と戦争と活字と』/濵田研吾・著/ちくま文庫/1100円+税
【評者】平山周吉(雑文家)
文庫オリジナルの地味な書下ろしである。文庫本の新刊の山の中では目立たない。このまま埋もれてしまうには余りにも惜しい名著である。「反戦平和」といった口当たりがよい戦争体験本ではない。我々が顔馴染みの映画演劇の役者たちが経験した戦争、戦場、銃後、終戦の思い出が広く蒐集されている。みんな昭和史の「脇役」たちなのだが、一癖も二癖もある「庶民」のヴァラエティに富んだ肉声となっている。
小津映画の名脇役・高橋とよはモンペ姿で玉音放送を聴く直前、歌舞伎芝居が頭をかすめた。「殿様から切腹を仰せつけられ腹を切る直前の気持は、こんなふうではないのかしら」。役者根性が頭をもたげるのだ。この高橋とよの八月十五日回想は高橋の自伝ではなく、雑誌「悲劇喜劇」の「女優の証言」特集に載ったもので、「悲劇喜劇」は昭和史証言に力を入れた演劇雑誌だったらしい。
岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」は敗戦後二十二年目に作られた。私は日比谷の映画館で観た記憶があるが、高校生でお金がなかったのでパンフレットは買わなかった。著者の濵田研吾はその時はまだ生まれていないが、古書店で入手した。