記録と記憶、どちらの面においてもドラマ史に残る作品になりそうである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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視聴率は毎話20%超と人気絶頂。いよいよ大詰めを迎える堺雅人主演のドラマ『半沢直樹』(TBS系日曜午後9時)。まさに「痛快さを絵に描くとこうなる」という展開で、特に後半に一層強く感じられる要素があります。めくるめくスピード感。こんなに速度を実感するドラマがかつてあったでしょうか?
まるでジェットコースターに乗ったように、走り出したら止まらない。ひたすら座席にしがみついてビュンビュンと肌でスピードを味わうあの感じに似ている。ドラマを見ながらどこかへ連れ去られてしまうような、不思議な心地よさもあります。
もちろん制作側は四苦八苦してスピード感を出しているのでしょう。例えば脚本。金融用語や状況の解説は、安定した山根基世さんのナレーションに任せ、同時に情報仕込み役としての渡真利忍(及川光博)を劇内に設定し、一手に説明を引き受けさせていく。政治家やライバル会社に翻弄されるメガバンクの複雑な事情について理解するための時間を余分にはかけない。
同時に、半沢は口をきりっと結び、目を剥き、肩から下は不動のポーズで「負けない、曲げない、まっすぐ走る」という正義の型を示す。そして次々に悪者を退治、また別の難題が立ちふさがり、乗り越えればまた障害物が……と目を離す隙も与えない。ドラマの基本構造「半沢直樹=正義」の図式は決して揺るがず、「勧善懲悪」という骨格もテッパン。基本が安定しているから、複雑な背景になって速度を上げても視聴者はついていける。
やりとりの応酬はたくさんあっても、くだくだした説明でブレーキをかけることはしない。その意味で、役者中心主義のドラマと言えそうです。
話題になった名セリフ「おねしゃす」が象徴的でしょう。大和田常務(香川照之)が「おっ…おぅっ…おねしゃす…」とつぶやけば、半沢が「おねしゃす?」と返す。「2文字足りないようです」と畳みかけ、とうとう「おねがいします」と言わせる……こうしたアドリブのやりとりこそ、筋・説明ではなく役者そのものを見る楽しさ。セリフは意味を伝達しているのではなく、まさに言葉の遊び。これぞ、芝居の持つ醍醐味。役者の表情、掛け合い、テンポとリズム、誇張された身体の面白さ、いわば「大げさな遊び」を味わう作品でもあります。