VR空間への「越境」は宝の山
尾原:吉田さんがVRに深くコミットしているとうかがって、僕が期待したのは、VR空間でのコミュニケーション術の開発なんですよ。アバターはこうしたほうがいいとか、こういうダンスを入れておくといいとか(笑)。
吉田:僕の今の課題が、まさに仮想空間への「越境」です(笑)。
尾原:絶対いいと思いますよ。すでに「バ美肉」(※)って話もあるじゃないですか。男性が女性型のアバターを使用して女性らしさを武器している一方で、普段、女性に対してこんなにバイアス・呪いをかけていたのか、ということに気づき始めている。VR空間での新しいコミュニケーションの技術は、これからたくさん出てくると思うんです。そういう技術って、特許を取れる可能性もあるので、絶対特許取っていたほうがいいですよ。
【※バ美肉/男性が、美少女型のアバターを使用して、VR空間上で美少女として振る舞うことや活動することを意味するネットスラング】
吉田:え、特許取れるんですか?
尾原:特許を取れるものっていっぱいあるんですよ。例えばiPhoneで、画面を一番端までスクロールしようとすると、画面がバウンドするじゃないですか。これって特許技術ですからね。この機能があることで、iPhoneって他社のスマホにない身体性がある。そうやって考えると、VR空間でも相手に警戒されないように適切なかたちでフェードインする方法とか、いろいろインターフェイスのアイデアが考えられると思う。
吉田:確かに、そうですね。
尾原:VRって技術も、放っておくと結局パーソナライズによって分断された世界のひとつになってしまうと思っています。VR空間から新たなイノベーションが生まれるためには、VR空間独自の「越境」の技術がまた必要になると思うんです。だから吉田さんには、是非「VR版コミュ障を克服する方法」を編み出して欲しいですね。
吉田:是非、期待していてください(笑)。
◆取材・文:坂下大樹
【プロフィール】吉田尚記(よしだ・ひさのり)/1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など幅広く活躍。また漫画、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人となるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。新著『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)が話題。
【プロフィール】尾原和啓(おばら・かずひろ)/1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、Google、NTTドコモ、リクルート、楽天などの事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『IT ビジネスの原理』『ネットビジネス進化論: 何が「成功」をもたらすのか』(共にNHK 出版)、『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)、『あえて数字からおりる働き方: 個人がつながる時代の生存戦略』(SBクリエイティブ)、共著に『アフターデジタル』『ディープテック』(共に日経BP)など。