9月12日、楽天イーグルス・渡辺直人内野手が引退を表明した。阪神・藤川球児投手に続き、残り少なくなった“松坂世代”の「野手最後の男」が現役生活に別れを告げることになった。近著『松坂世代、それから』(インプレス)でも渡辺をインタビュー取材しているスポーツライターの矢崎良一氏が、彼の知られざるアマチュア時代にスポットライトを当てる。
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今季限りで引退する楽天イーグルスの渡辺直人内野手。振り返れば、26歳という遅いプロ入り。14年間の現役生活は、トレードで3球団を渡り歩いた。個人タイトルなどには縁のない、まさに「バイプレーヤー」。だが、行く先々の球団でファンに愛され、チームメイトからの人望を集める“人間力”にあふれた選手だった。そんな野球人渡辺の原点となっているのが、4年間の社会人野球時代の経験だった。
プロ入りしたばかりの新人選手がレベルの違いに直面した時に、よく「プロの壁」という言葉が使われる。しかし渡辺は「“壁”ということなら、プロよりも社会人に入った時のほうが強く感じた」と話している。
茨城県の公立校・牛久高校から首都大学リーグの城西大。いわゆる名門チームの出身ではない渡辺は、中央球界では無名の存在だった。だが抜群の身体能力に目をつけた三菱ふそう川崎からの誘いを受け、社会人野球の門を叩く。
三菱ふそうは、渡辺が入社する前々年(2000年)に都市対抗野球で初優勝した社会人屈指の強豪チーム。まだオリンピックの代表がアマチュアで編成されていた時代に、日本代表で活躍してきたベテラン選手がスタメンに並ぶ、成熟した「大人のチーム」だった。
桑元孝雄(アトランタ五輪代表、現・東京農大コーチ)、西郷泰之(同、現・東海大コーチ)、梶山義彦(シドニー五輪代表)ら、熱心なアマ野球ファンでなければ馴染みのない名前。だが渡辺は「どうしてこの人たちがプロじゃないの? 今の自分じゃとても通用しない。もっと練習しなきゃ」と圧倒されたという。
「凄みが違うんです。技術もそうですが、野球への考え方や練習への取り組み方、すべてにおいて勉強になる存在でした」
そこで渡辺に、一つの野球観が形作られる。
「社会人でもプロでも、上手い選手はたくさんいる。でも、ここ一番で仕事が出来て、チームメイトから『あいつなら』と信頼されるのは、“上手い”選手よりも“強い”選手なんです」
ベテラン選手たちは強かった。渡辺も彼らのような“強い”選手を目指すようになる。