【著者に訊け】小野寺史宜氏/『タクジョ!』/実業之日本社/1700円+税
昨年、本屋大賞第2位に選出された『ひと』を始め、小野寺史宜氏(52)の著作はどこか祈りにも似た「今、ここ」の肯定を感じさせる。そんな著者に『タクジョ!』、つまり女性タクシー運転手の日常を描かせたのは、どんな動機なのか。
「一つはデビュー作以来となる女性一人称で10数年ぶりに書きたくなったこと。それと僕は元々昼より夜が好きで、特に銀座の少し地味な道を歩くのも好きなんです。そういう夜の町に乗り物を走らせるなら、電車や飛行機よりも実際に移動している体感があるタクシーはいいなと思いました。町から町へ移動するとき、出発地と目的地が点であるわけではなく、その間にも人がいて、生活があることを、運転者は経験的に知っていると思うのです」
舞台は東京・江東区にある東央タクシー東雲営業所。ここに大学卒業後、新卒で入社した〈高間夏子〉23歳や、実は高学歴で人気俳優似の先輩ドライバー〈姫野民哉〉、さらに夏子が小6の時に離婚した〈硬~い父と、やわらか~い母〉や、その母の勧めで夏子が見合した公務員〈森口鈴央〉らが繰り広げる、騒動ともつかない騒動を本書は描く。
初見の客を乗せ、密室ゆえの危険もあるその職に、夏子は女性客の不安軽減のためにも就きたいと思った。そんな真っ直ぐな心を過酷な現実から守るも守らないも、結局は自分次第?
〈わたしは隔日の女〉と、ミステリアスに始まる本作は、当初の予定では表題も『隔日の女』だったとか。
「タイトルにするには怪しい響きですよね(笑い)。要は朝8時から翌朝4時頃まで乗って、その日はそのまま休みに入るシフトのことを指します。他にも、安全上1日の走行距離は365キロが上限とか、車は1台を2人で使う等、お仕事小説としての職業あるあるは網羅しつつ、夏子の個人としての葛藤や普段の生活も描きたいと思っていました。
各社のHPを見ても、最近はどのタクシー会社も女性や新卒採用に力を入れていて、同期入社が100人いることもあるようです。業界全体が若返りや体質改革を図る最中の期間に取材できて、面白かったです」