安倍晋三前首相の突然の辞任により、9月16日に第99代内閣総理大臣に就任した菅義偉新首相。これまで、たびたび日本との対立や関係悪化が取り沙汰されてきた中国だが、国民は今回の新首相の誕生をどう受け止めているのか。中国の経済、社会に詳しいジャーナリストの高口康太さんが解説する。
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「この菅義偉ってどういう人なの?」
「漢字3文字だから中国人っぽい名前だよね(笑)」
「何でもいいけど、親中なのか反中なのかだけ教えてよ」
「みんな知らないの? 安倍政権の官房長官だよ。だから何も変わらないのでは」
菅新首相の誕生を中国国民はどう受け止めたのか、少しでも知りたいと思い、中国の大手SNS「微博(ウェイボー)」を覗いてみたら、「この人だれ?」という反応が大半を占めていた。安倍前首相の辞任が突然だったこともあり、新首相のひととなりが知られていないのは当然とはいえ、「よく分からんが、日中関係のさらなる発展を期待する」くらいの、“期待を込めつつの態度保留”程度からスタートしてもらえないものだろうか。まあ、「よく分からないが、日本の新首相ゆるすまじ」という理由なきマイナススタートよりはマシなのかもしれないが。
さて、「よく分からない」という中国国民に対し、中国メディアはどのような切り口で新首相の誕生を伝えたのか。中国の雑誌『環球人物』ウェブ版は「“農家の長男”菅義偉、首相の道を切り開く」との記事を掲載した。秋田の農家で生まれた「平民」が首相になるまでの人生を短くまとめている。一方で、菅新政権の展望については「安倍首相なき安倍政権」になるのではとの予測で、「多分何も変わらないのでは」という見立てのようだ。
在日中国人作家の徐静波氏は、「菅義偉:出稼ぎ農民から首相までの道はどれほどの遠さか」と題したコラムを発表している。なるほど、菅新首相の生い立ちを知ると、「出稼ぎ農民が首相になるなんて!」と驚く中国人は多いだろう。菅新首相は農家出身に加え、上京後は一時期、ダンボール工場で働いた経歴もある。中国風に言うと、「農民工」(出稼ぎ農民)だ。今も、「きつい」「汚い」「危険」の3K労働の多くを担っているのは出稼ぎ農民たちである。以前と比べれば待遇は改善されて来たとはいえ、都市戸籍を持つ住民たちとの格差は未だに大きい。
大学進学にあたってもハンデがあるうえ、名門大学に入学できたとしても、頼れるコネがあるかなどの格差は一生付きまとう。政権トップはというと、革命元勲の父を持つ「太子党(革命功労者の子弟による派閥)」の習近平国家主席と、北京大学卒のエリートである李克強国務院総理(首相)。出稼ぎ農民がここまで辿りつく道は見えない。毛沢東が農民の国を建国したはずなのに、気づけば農民が割を食う国になっているのが中国の現状だ。その中国的感覚から見ると、出稼ぎ農民から首相というサクセスストーリーは驚き以外の何者でもない。