田原の足を動かした思いとは
越谷ライブの最終盤、田原は足の状態が悪い中、力を振り絞って『愛は愛で愛だ』の“決め”である足上げを3度、忠実に行なった。前述のように、この曲には明確な振付があるわけではない。あくまでフリーダンスであり、足を上げなくても、振付を省いたとは判断できない。
『愛は愛で愛だ』を公で披露したのは、テレビ2番組、配信ライブ、ツアー初日の厚木、2日目の名古屋、この越谷公演を含めて6度である。すべてを欠かさず見たファンは数えるほどだろう。別に、越谷でサビラストの足上げを1度くらい省いても、誰も責めないはずだ。ましてや、体の状態は完璧ではない。
それでも、田原は1度も省略せずに、思い切り足を振り上げ、決めポーズを取った。
1度決めたらやり通す──。この意地が、精神的な“田原俊彦らしさ”の根幹にある。曲の振付をしなくなった瞬間、自分は終わる──。そんな思いが、足を動かしたのかもしれない。
もちろん、足の状態が悪くなるようなセットリストの組み方や調整の問題も指摘されて然るべきだろう。ただ、59歳という年齢で2時間余り歌って踊るライブを続けていること自体が驚異的だ。そのため、あげつらうのは気が引けてしまう。
来年の新曲は『ハッとして!Good』『キミに決定!』『NINJIN娘』『チャールストンにはまだ早い』などのヒット曲を生み出した宮下智が担当する予定だという。船山基紀は9月14日、インスタグラムで田原とのツーショットを投稿した。これが新曲と関係するのかは不明だが、もし実現すればジャニーズ事務所独立直後の1994年以来になる。
船山と宮下がタッグを組めば、“田原俊彦らしさ”が十分に醸し出される曲になるはずだ。 そして、ダンス曲になるなら“決めポーズ”も含め、“らしさ”を構築できる振付師が必須になる。
『哀愁でいと』でのデビューから約2年間、ジャPAニーズのメンバーとしてバックで踊り、『チャールストンにはまだ早い』『It’s BAD』『抱きしめてTONIGHT』などの振付で田原の魅力を存分に引き立たせたボビー吉野の起用はどうか。ボビーは田原の特徴を熟知しており、振付の引き出しも無数に持っている。そんな人物と仕事をすれば、曲の輝きは何倍にも増すだろう。
田原俊彦は来年、還暦を迎える。三浦知良はゴールを、田原俊彦はヒット作を生むことで報われる。年々、肉体的な厳しさは増しており、いつまで動けるかは未知の領域である。
だからこそ、記念すべき年に、どうかヒット曲を──。
(文中一部敬称略)
■文/岡野誠:ライター。田原俊彦本人へのインタビュー、野村宏伸など関係者への取材、膨大な資料の緻密な読解を通し、人気絶頂からバッシング、苦境・低迷、現在の復活までを熱がこもった筆致で描き出した著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)が話題に。『哀愁でいと』『抱きしめてTONIGHT』などヒット曲の誕生秘話も収録。