《今年は過去5年で最大量(最大約6300万人分)のワクチンを供給予定ですが、より必要とされている方に、確実に届くように、ご協力をお願いします》
厚労省ホームページではこんな呼びかけが行われている。10月1日からインフルエンザワクチンの接種が始まった。厚労省は重症化リスクの高い人たちの接種から進めたい方針で、まず最初に「65才以上」「60才から65才未満の慢性高度心・腎・呼吸器機能不全者等」の接種を呼びかけ、10月26日以降に「医療従事者」「基礎疾患を有するかた」「妊婦」「生後6か月~小学2年生」を中心に呼びかけの対象を拡大する方針だ。
要は、それ以外の人たちの接種はちょっと待ってほしいということである。来年2月に中学受験を控える小6男児の母(40代・都内在住)が不安げに語る。
「ママ友の間で、“今年はワクチンが足りなくなるのでは”と噂されています。受験生の息子だけでなく、一緒に暮らす家族も打ちたいのですが、回ってくるのでしょうか……」
厚労省によると、今シーズンのインフルエンザ患者数は特段に少なく、9月第4週の報告例はわずか4人で、昨年同期の約1000分の1以下だ。理由は、新型コロナウイルス対策の手洗い、うがいなどが功を奏したからと推測される。しかし、「楽観視はできない」と医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんが警鐘を鳴らす。
「インフルエンザは世界中を循環して日本に流入します。いま、海外との交流が激減しているため、日本での流行は小規模かもしれないと考える専門家がいますが油断は禁物です。今後、次第に往来が増えれば当然リスクは高まります。
しかも今年は特に、インフルエンザにかかって熱が出ても、新型コロナ感染症による発熱とすぐに見分けがつかないので、クリニックの受診を断られたり、自宅で待機しなければならなくなったりして、すぐに治療を受けられず、重症化するリスクが高いといえます」
だからこそ、今年こそインフルエンザワクチンは接種しておきたいところだ。さらにもう1つ、今シーズンのワクチン接種には重大な意味がある。米コーネル大学のグループがイタリアの高齢者を対象に調べたところ、インフルエンザワクチンの接種率が40%の地域の新型コロナ死亡率は約15%だったが、70%と高かった地域では6%まで低下していたと報告された。
また、米ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らが今年6月10日までの新型コロナによる死亡者とインフルエンザ予防接種率の関係を調べると、高齢者の予防接種率が高い群では、新型コロナによる死亡リスクが低かった。その研究では、ワクチンの接種率が10%増えるごとに新型コロナ死亡率が28%低下していた。