トランプ大統領とバイデン氏による初のテレビ討論から一夜明け、アメリカでは各メディアがその分析と総括をしているが、日本の大新聞やテレビがそうであるように、アメリカでも大メディアのバイアス(偏向)は避けられない。日本でも報じられた「トランプ氏の白人至上主義発言」に対し、ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は異議を唱える。
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昨夜は、トランプ氏とバイデン氏のテレビ討論中継を見て、夜中に原稿を書き、明け方に床に就いた。昨夜リポートしたように、二人の討論は不毛で中身が薄く、筆者にとっても後味の悪い夜だった。
そして今朝、各メディアの報道を見て、また暗い気持ちになった。日本にいた少年時代から尊敬し、実際にコラムニストや記者たちと交流してきた(それがアメリカに渡る大きなきっかけになった)ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストが、こんな偏った報道をするのか、と怒りを禁じえなかったからである。両紙はほとんど同じ内容を報じているので、ニューヨーク・タイムズを紹介する。
《トランプ氏、過激派白人至上主義者グループを非難、排斥せず 共和党は大統領と距離を置く
(中略)
人種差別的な過激主義が議題となり、バイデン氏が、白人至上主義と暴力行為に関連した組織「プラウド・ボーイズ」を非難するようトランプ氏に迫ったところ、トランプ氏は組織に対して、「後ろに下がって待機していなさい(stand back and stand by)」と呼びかけた。これは事実上の支持表明と捉えられる。》
いくらなんでも無理がある。この発言だけで白人至上主義グループを支持したことになるとは筆者には思えない。確かに筆者も、トランプ氏は白人至上主義者ではないかと疑ったことはある。特に移民に関する発言には、特定の人種や民族に対する差別意識がにじみ出ていることがよくある。感情的には、そうした人々のことが嫌いなのだろうと思うし、筆者自身、日本からの移民のようなものなので、我が身が心配になることもある。
とはいえ、昨夜の発言と、これまでの言動を無理やり結び付けて、白人至上主義者であるかのような見出しで報じるのは間違っている。人の思想・信条や主義・主張はもっと多面的なものだし、少なくとも昨夜の発言は、白人至上主義者たちに「下がれ」「待機しろ」と言ったのであり、これを「事実上の支持表明」とは言わない。