リスクを冒さなければリターンは得られない。確かにそれは真実ではあるのだが、公金の詐取に関わるリスクを負うことは、マイナスにしかならないのではないか。ところが今、予想外の規模で公金の詐取に関わった人がいると明るみに出つつある。個人事業主なら最大100万円を受け取れる持続化給付金の受給をSNSで盛んに申請を呼びかけ、結果として多くの不正受給事件を生み出したネット上でのビジネス成功者は、いったい何者なのか。ライターの森鷹久氏が、インスタグラムで持続化給付金の受給を呼びかけた人物を直撃した。
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「犯罪かどうかと言われれば、悪い部分もあるかもしれません。でも僕は法律的には『善意の第三者』です。警察にも話したが、逮捕されていない。僕は犯罪者じゃないんですよ」
東京都江戸川区の「事務所」で筆者の取材にこう答えたのは、5月頃に自身のSNS上で「誰でも持続化給付金が受け取れる」などと書き込んでいた自称IT系会社の代表・野本優氏(仮名・30代)である。「自称」としたのは、野本氏が主張する「株式会社」の法人登記が確認できず、かつ、野本氏が本当にIT関連の仕事をしているか、その実態が見えてこないためである。
筆者が野本氏の存在を知ったのは、沖縄の地元紙・沖縄タイムスの社員ら関係者数人が「持続化給付金」を不正受給していた件について取材していたことがきっかけだ。沖縄タイムスの社員ら、さらに沖縄県内在住の複数の男女が、沖縄県那覇市内の税理士・X氏に架空、もしくは虚偽の「確定申告」を依頼。その書類を別の第三者に渡すなどして持続化給付金を不正に受け取っていたとみられる。X税理士は沖縄県警の事情聴取も複数回受けており、筆者もX氏の事務所に何度電話したが、本人に取り次いでもらえることはなかった。X氏の話を直接、聞くことはできなかったが、その事務所に架空の確定申告を頼みに行ったというAさん(20代男性)の証言を得ることができた。
「職場の先輩に『100万円もらえる』と聞いてXさんの事務所に行ったところ、周辺には車の行列ができていました。女の職員さんが整理券を渡していて、一度家に帰って、改めて事務所を訪れました」(Aさん)
Aさんは、那覇市中心部の繁華街にある飲食店の従業員。Aさん以外にも、店からは5~6人の同僚がX氏の事務所を訪れていたと話す。
「緊急事態だし、申請すればもらえるもの、というように上司から説明されました。行列を見て本当に誰でももらえるのだと思いました。上司はネットビジネスもやっていて、有名なビジネスマンも給付金が入手できると言っていると、インスタグラムの画面を見せてきました」(男性)