誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家であり、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、競馬を楽しく続けるためのメンタルの整え方についてお届けする。
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電線もビルの影もなにもない、あの贅沢な広い空が恋しい。早く競馬場に戻りたい。ラストの直線、腹の底から声をぶつけたい。バカヤローの罵声だって、大きな空が吸いあげてくれる。
蟄居競馬では目線は下がってばかり。そのせいかどうか、どうもメンタルの塩梅が芳しくない。やるせないのである。
どんよりの原因は明白。スカっと勝てないから。馬券術の巧拙は横に置いておいて、なんとかメンタルの揺れを抑えたい。どこか切ないセプテンバーソングを思い出す季節でもあり、「中高年期の危機」とも言われる年齢だし、競馬とは長く付き合っていきたいし。
症状の客観視から。曜日別の差が顕著だ。穏当なのは火曜から木曜までで、金曜日の午後から脳内にワクワク感が湧いてくる。土曜の10時頃までがもっとも楽しい。そして午後4時にはうなだれている(そうでないときも)。それでも明日がある。ガッツを奮い立たせ、競馬新聞を買いに走る。そして日曜日の夕刻。2日の収支がプラスならばいいけど、ダメなら頭と胸が黒い雲に覆われている。どんよりとした気分は月曜の昼くらいまで続くのだった。
好きなことをやっているのだ。勝っても負けても、もう少し快くなれぬものか。そうあるべきじゃないか。
私よりも遥かに競馬歴の長い専門誌の知人に相談した。周囲には彼をも凌駕するベテラン馬券師がうじゃうじゃいるから、人間観察のサンプル数は膨大であろう。
「後悔しないことだね」と彼は即答した。
「馬券の反省は必要。でも後悔は要らない。後悔ばかりだと、胸が痛くなる」。