2019年初頭から何度もニュースの見出しに登場し急速に広まった「アポ電」という言葉は、まるでアポイントメント=会う約束をとりつけるように、確認の電話をしてから詐欺や強盗と繋げて使われるようになってしまった。世間に「アポ電」が犯罪と結びつきやすくなったいま、高齢者宅に「ガス点検」を装った点検強盗が相次いでいる。きっとこれも「アポ電」があるのだろうと思われたが、現実に起きた事件を確かめると、少し様子が違う。ライターの森鷹久氏が、点検強盗と昨年までのアポ電強盗の違いについてレポートする。
* * *
ガス点検を装った強盗、いわゆる「点検強盗」事件が、関東や大阪などで10件以上相次ぎ、テレビでは報道番組だけでなくワイドショーなどでも連日取り上げられている。紐で縛り上げられた、テープで口を塞がれたなど、被害者の生々しい証言が放送されたりもしているが、テレビや新聞などではどうも「アポ電強盗」に関連づけた解説がなされているようである。取材を続ける大手紙社会部記者が言う。
「今回起きている事件は、そのほとんどが高齢者の住処を狙ったもの。いわゆるアポ電の強盗の一種と見られます。以前なら、アポ電によって家主の不在時間を探ったりということもできたはず。コロナの影響で、家を尋ねれば人がいる場合がほとんど、ということを前提とした犯行です」(社会部記者)
それでは、事前に自宅に現金があるか確認する「アポ電」はあったのか。
関西や関東で「点検強盗」にあった被害者宅は、筆者の取材によれば、いずれも資産家というわけではなかった。団地暮らしや年金暮らしの老人もいて、家人の留守を狙う空き巣中ならまだしも、家人との対峙も辞さない覚悟を持った強盗が狙う対象にするには、どうも不自然なのだ。更に言えば、被害者の中には、アポ電には必須の「固定電話」を引いていないという家庭もあったのだから、点検強盗はアポ電強盗とは一線を画した新たな「犯罪」としか思えないのである。
確かに、高齢者の家を狙い撃ちにしていることから、何らかの「名簿」をもとに押しかけていることはうかがえる。従来の「アポ電」を伴う詐欺や強盗も、その人の名前、住所、電話番号、そして資産状況などがまとまった名簿のなかから、自宅にまとまった現金を置いている人をリサーチしてから、ターゲットに向かっていた。ところが、今回の点検強盗については、苦労をして奪うほどの金があるかどうか、ろくに確かめていない様子なのだ。