アメリカ大統領選挙が11月に迫り、世界中から注目を集めている。新型コロナウイルスの感染拡大する前までは、これまでの傾向から現職が圧倒的に有利で、トランプ大統領の2期目は確実視されていた。しかし、新型コロナウイルスの初動に失敗し、世界一の感染者数と死亡者数(20万人超)を出した上に、経済も急落。在任4年間の富は吹き飛ぶどころか、新型コロナによる失業率は高止まりし、さらに白人警官による黒人男性の暴行死に抗議するデモに対して「軍出動」発言をしたことで一時支持率が大きく下落した。選挙戦は、対立候補のバイデン氏と競り合う展開となっているが、トランプ続投でもバイデン政権誕生でも「アメリカの分断は今後も深刻化する」「日米関係で日本は難しい立場に置かれる」と話すのが、日本人で史上唯一、約10年にわたり、アメリカ連邦議会・上院予算委員会補佐官(国家公務員)を務めた中林美恵子氏(現・早稲田大学教授)だ。『沈みゆくアメリカ覇権 ~止まらぬ格差拡大と分断がもたらす政治』(小学館新書)を上梓した中林氏に、大統領選以後のアメリカの国内情勢、外交、そして日米関係を聞いた。
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──現在の支持率を見るとバイデン氏50%・トランプ大統領46%(CNN)、両者とも48%(NBC)などと互角の数字が出ている。どちらが当選してもおかしくない状況だ。
中林:投票日である11月3日に、当選者が決まらないかもしれません。両者の支持率が伯仲していることもありますが、鍵を握っているのが、多くの有権者が「郵便投票」をする見込みであることです。ワシントンDCと9つの州では全有権者に投票用紙が郵送されており、ほかの州でも希望者や障がいを持つ人などに郵便投票が認められています。現在のコロナ禍の中では、投票所に足を運ぶのを避け郵便投票を選択する人が増えるのではと予想されています。
ただ、この郵便投票には集計に時間がかかるという問題があります。今年6月に行われたニューヨーク州の下院議員補選では、投票日に40ポイント差で共和党候補が当選したものの、その3週間後に郵便投票の結果が加わると5ポイント差まで縮まったということが起きました。大統領選挙でも、投票日はトランプ大統領が勝っていたのに、何週間か後に郵便投票も集計されるとバイデン氏が逆転する、といったことが起こり得ます。しかも、郵便投票をする比率は民主党支持層に多いのです。だから、そういった可能性がないとは言い切れません。この場合、トランプ大統領は郵便投票の不正を訴える可能性もあり、事態が泥沼化するかもしれません。できるならば、圧倒的大差で決着してほしいところです。
──アメリカの一般国民は、トランプ大統領の4年間をどう評価しているのか。
中林:コロナ禍より前は景気拡大が進んでいたわけですが、それを一般の人が実感できていたかというと、疑問符がつきます。バンクレート・ドット・コムがユーガブに委託した世論調査で、コロナパンデミック前の失業率は低かったものの、所得の伸びが訪れるのは遅かったとの傾向が見られたといいます。さらに同じ調査で、トランプ大統領の経済政策運営については、42%の人が否定的評価をしているのです(肯定的評価は35%)。もちろんコロナ禍も4年間の成果を大きく曇らせました。さらに大統領当選前の15年間のうち10年分の所得税を連邦政府に払っていなかったという疑惑も米紙ニューヨーク・タイムズに報じられ、本人は否定するも、納税記録開示に非協力的なことで、これはかなりの痛手になりそうです。
──対する民主党は伝統的に課税強化と大きな政府を志向するが、バイデン氏の主張も同じなのか。
中林:トランプ政権は連邦法人税を35%から21%に引き下げましたが、バイデン陣営はこれを28%まで戻すとしています。そして、育児・介護分野への投資や連邦政府がアメリカ製品を購入する「バイ・アメリカン」政策で景気刺激を図るとのことですが、先の連邦法人税の増税や資産取引課税を行っても、財源の不足が見込まれます。さらに、バイデン氏が当選した場合の経済政策で懸念されるのが、アメリカの人種などによる分断がより深まってしまうことです。民主党の訴える増税や規制強化は必ずしも白人貧困層に相いれるものではありませんし、バイデン氏の政策の中には有色人種を優先することをうたうものもあるため、ラストベルトの有権者をはじめとしたいわゆる「忘れられた人々」にとっては、また逆差別に遭うのか、といった感情を持つ可能性が高いといえます。