夫の定年退職によって夫婦が顔を合わせる時間が増えて、ストレスが溜まり、やがて夫婦関係が破綻する「定年離婚」が増えたのは、ここ10年ほどのこと。同様に今回のコロナ禍によるステイホームでも、夫婦の距離が近くなりすぎて「コロナ離婚」「コロナDV」が増えたという。
「私たちのように、なかよし別居していれば、最悪の事態を免れたかもしれないのに」と話すのは、『なかよし別居のすすめ』の著者である「群言堂」デザイナーの松場登美さん。「群言堂」は世界遺産で知られる島根県石見銀山で、夫の大吉さんとともに営んでいる株式会社石見銀山群言堂グループの中心となるブランド。アパレルをはじめ、飲食や宿泊など幅広く事業を行っている。
公私ともにパートナーである二人は結婚して45年以上。18年前、古民家を再生した宿事業の立ち上げをきっかけに、登美さんは家族で暮らす家を出て、この宿に移り住んだ。「別居」というと、お互いがいやになってスタートするケースが多いが、この夫婦にとっての別居は、それぞれの自立と成長のため。精神的に自立するために積極的に別居しよう、と二人で決めたそうだ。いざ別居を始めると「一人の時間は持てるし、夫を気にせず好きなものを選べて、いいことだらけ」と登美さんが言えば、「自分の好きなことができるのも、一人の自由な時間があるからこそ」と大吉さんもこたえる。別居生活が快適すぎて、元の生活には戻れない、と二人は口をそろえる。
自分のしたいことに没頭できるのが至福
この二人が特別なわけではない。「なかよし別居」で夫婦生活をうまく持続させている夫婦は他にもいる。福島県の片桐直彦さん、静江さん夫婦(仮名/夫71歳・妻67歳)は、子どもが独立後に別居を始めて、もう13年になる。きっかけは、妻のおばさんの介護だった。
「おばの最期をいっしょに過ごそうと、景色のいい場所に一軒家を購入しました。いろいろな手続きをすませて、さあ入居というときに、おばが亡くなってしまった。でも家は残ったので手入れのために、ちょこちょこのぞいているうちに、いつしか私一人で住むようになったんです」