老親を介護するということは、その程度にかかわらず独特のつらさや悲しみがある。だが、「家族だから」という思いからストレスを訴えられないことや、自分の苦悩に気づかないこともあるという。
よい介護をするためにも、“介護する人・介護者”への支援はとても重要。そして介護者自身もつらい気持ちと向き合い、自らを癒すべく動くことが大切だという。
介護者を支援する介護者サポートネットワークセンター・アラジンの森川恵子さんに聞いた。
老親が心配になったとき介護は始まっている
「まずは自分が介護者であると自覚することが大切です」(森川さん・以下同)
森川さん自身も13年前、認知症の実母と同居を始めた当初は、介護者という認識がまったくなかったという。
「認知症について知識もなかったので毎日母に振り回されっぱなし。とてもイライラしましたが、私はただ娘として一緒に暮らしているだけ。介護とは思わなかったのです」
認知症を学ぼうと参加した講座でアラジンのスタッフに「病気や障害のある人と暮らすこと自体が介護」と言われ、それまでのいら立ちが救われた気持ちになったという。
「親子だから当たり前と思っていると、逃げ場がなく自分を追い込むことになります。同居でなくても頻繁に電話したり定期的に様子を見に行ったり、いつも心配するようになったら“介護している”と自覚した方がよいです」
追い込まれると、目の前にある大切な情報や選択肢も見えなくなるという。そんな状況で選んでしまう介護離職は社会問題にもなっている。
「たとえば、介護保険サービスがあることは知っていても、実際には老親が拒否する、おむつ替えが大変な夜中にはヘルパー訪問が使えない、経済的な問題で使えない……など、行く先々に壁が立ちはだかるのです。
そんなときひとりで抱え込んでしまうと“もうどうにもならない”という心境に陥り、“自分が介護しなければ”と思い詰めてしまうのです。離職まで至らなくても、視野を広げたり合理的に割り切ったりできなくなるのが介護者のつらさ。ひとりで抱えないことが何より大事です」