ジャーナリスト・池上彰氏は、これまで3回インドを訪ねたという。現在人口13億人を抱え、そう遠くない未来に中国を超えるといわれるインドは、今後の国際社会を占う上で欠くことのできない国といえる。しかし、私たち日本人にとってインドを近い国とは言い難い。首相は誰なのか? 仏教発祥の国でありながらなぜ国民のほとんどがヒンドゥー教徒なのか? そんな質問にきちんと答えられる日本人は少ないのではないだろうか。博覧強記で知られる池上氏にとってもインドは「不思議な国」だったという。
「私が行ったのは、デリーとニューデリー。デリーの非常に古い町並みとニューデリーの発展する新しい景観が記憶に残っていますね。仏陀が悟りを開いたブッダガヤにも。それから、ダライ・ラマ14世に会うためにダラムサラにも行きました。ダラムサラはパキスタン国境に近くて、警備も非常に厳重でした。『発展するインド』と『周辺の国と緊張関係にあるインド』という2つの面があるんだなという印象を受けました。
本当にインドって、知れば知るほど不思議だなという印象があるんですね。もちろん知れば知るほど、理解は深まるのですが、理解が深まると同時に、さらに奥が深い国だなと感じます。そして、今とにかく人口が増えている。いずれ世界一の人口になる。19世紀はイギリスの世紀だった。20世紀はアメリカの世紀だった。21世紀は中国の世紀になるのか、はたまたインドの世紀になるのか。21世紀の前半はひょっとすると中国の世紀になるかもしれませんが、後半はインドの世紀になるかもしれない。躍動し、躍進する大国のことをもっともっと知る必要があるのかなと思っています」
9月15日、India & Japan: Future Forum(#日本インド未来会議)でジャーナリストの池上彰氏と駐日インド大使サンジェイ・クマール・ヴァルマ氏が対談を実施した。『池上彰の世界の見方 インド』を上梓したばかりの池上氏が、中国との関係やインドで猛威を奮っているコロナ禍など、気になるテーマで大使に迫った。
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池上:インドが輩出した人材は、世界中の多くの分野で活躍しています。大使はなぜ外交官を目指されたんですか?
ヴァルマ大使:私が卒業した時、政府は最高の就職先でした。政府にはさまざまな省庁がありましたが、インドの外務省は最も名声があり、社会的からも(就職先として)とても望ましいと思われていました。ですから、当時21歳だった私は試験を受けたのです。この道に進もうと思いました。その後は出世競争でしたね。私はそれに参加し、現在に至りました。
池上:大使のお立場からは、今の日本とインドの関係をどのようにご覧になっていらっしゃいますか?
ヴァルマ大使:日本はイノベーションのすばらしい国だと思います。さまざまな新しい製品や製法をつくり出していると思います。私は科学技術と製法のイノベーションは、日本とインドがコラボレーションすべき2大分野だと考えています。たとえば、体が不自由な方はインドにも日本にもいます。つまり、日本とインドは同じ課題を共有しているわけです。このような分野で、革新的な新製品や製法を共同開発できるのではと思います。さらに、必要なものを共同で作り出すこともできるでしょう。本当にたくさん協力し合えることがあると思います。インドにはとても大きな市場があります。それから革新的な製品の実験をしたり、生産したりすることができます。共同で開発し作った製品が世界的な商品になる可能性があるのです。