14世紀に京都・鴨川の二条河原に掲示された「二条河原の落書」は、当時の権力者や不安定な社会への皮肉を込めた匿名の文書として歴史の教科書にも登場するが、そこに「此比都ニハヤル物」として「夜討強盗」が真っ先に挙げられている。奇しくも、都市部ではいま「点検強盗」が激増して世の中を震わせている。被害者はいずれも高齢者で、他に共通点が見当たらないが、防ぐ手立てはあるのか。ライターの森鷹久氏が、点検強盗の被害に遭った場所や人を訪ね、防犯について考えた。
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首都圏や関西で相次ぐ「点検強盗」。
いわゆる「オレオレ詐欺」など、被害者から金品を掠め取る特殊詐欺から、事前にターゲットの資産状況や在宅時間などを確認した上で、被害者に危害を加えて金品を強奪する「アポ電強盗」へ移り変わったのが一昨年ごろ。そして新たに登場したのが、電気やガス業者を装い自宅に押し入る「点検強盗」である。
点検強盗のひとつひとつを確認すると、相手が弱者であれば誰彼構わず襲いかかるもので、資産を持っていようがいまいが関係なく狙われていることが分かる。そこから考えられる犯人像は、同じ高齢者リストらしきものを使用している特殊詐欺はもちろん、アポ電強盗の犯行グループとも大きく異なるとしか思えず、雑で暴力的、かと思えば幼稚で、計画性も感じられない。かつて詐欺事件の犯人が強盗に転じるなどありえなかったが、アポ電強盗、点検強盗と事態がすすむにつれ、行動がより雑に、思考はより凶暴になり、殺人さえも厭わない野獣へと成り代わってしまった、とも言える。
粗雑で粗暴な犯罪集団に対して、自衛には何が必要なのか。そこで筆者は改めて、被害者がどのような人たちなのかを探り、連中が狙う「ターゲット」の実像を追いかけることで防犯の道を探ってみた。
アポ電の類いはなかった
東京都A区の公営アパートに住む酒井敏夫さん(70代・仮名)は、9月23日午後3時ごろ「ガスの検針に来た」という2人組の男を部屋に招き入れた。男らは配電盤などをチェックする素ぶりを見せた後、酒井さんの口や手足を粘着テープで縛り上げ、室内を物色。殴る叩くなどの暴行はなかったが、部屋にあったおよそ30万円の現金が盗られた。同じアパートの住人女性(70代)がいう。
「今流行りのアポ電強盗かと思いましたが、酒井さんのお宅には電話がない、携帯も持っていないんです。インターホン付きカメラ? あるのは呼び鈴だけ。このアパートに住んでいるのは、そんなに裕福ではない中高年ばかり。独居老人も多い。高齢者を狙った詐欺事件が相次いでいることは知っていましたが、ここの住人には縁がないと思っていた」(住人女性)