東京都港区にある麻布中学校・高等学校は、東大合格者数トップ10常連校ながら底抜けに自由な校風で知られる。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、近著『麻布という不治の病』で、幅広い業界で異色の活躍を見せる卒業生9人へのインタビューをもとに、自らの母校の時代ごとの校風を活写した。その一部を抜粋し、麻布の自由な校風がどんな個性を育んだのかを見ていく。「国際弁護士」として知られる湯浅卓さん(64)は、同校卒業生のフランキー堺に憧れ、麻布を目指したという──。
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立ち読みだけで参考書を読破し麻布合格
湯浅卓さんは、「国際弁護士」という肩書きにそぐわないその風貌とナルシストキャラ、そしてハチャメチャな「湯浅ダンス」が注目を浴び、2000年代にはバラエティー番組に引っ張りだことなった。映画評論家でもあり、自ら映画にも出演している。
さて、2時間ほど話したが、つかみどころがない。もしかしたら、このひと、宇宙人? それくらいに浮世離れした存在感なのである。でも思い出してみるとたしかに麻布には、学年に何人かこういうタイプのひともいた。
はじめに断っておくが、湯浅さんは日本の弁護士資格はもっていない。国際弁護士としての主戦場はニューヨークのウォール街だ。
「8つ上の兄も麻布です。それで私も麻布を受けることになりました」
中学入試のためにどんな勉強をしたのか。
「やってないです。それは湯浅ですから」
湯浅さんの中学受験必勝法はこうだ。
「当時『自由自在』『応用自在』『完全学習』『力の五〇〇〇題』という四大受験参考書がありました。本屋さんに行ってそれを立ち読みするんですよ。同じ単元を扱ったページを4つ見比べて、『この単元については応用自在がよくできている』なんて判定します。まあ言ってみれば『上から目線読み』ですね。自由が丘の三省堂と渋谷の大盛堂の参考書はすべて立ち読みで読破しました。普通のひとは家に帰って勉強して赤線引いたりするんでしょうけれど、そんなことはしません、湯浅。受験勉強と受験産業と受験参考書を評価した。その結果、麻布の門をくぐったわけです」
常人離れした勉強法である。
「参考書とかそういう区別なく、本が好きでした。読むスピードが速いから、中学生になると自由が丘の三省堂を読破しました。その次に渋谷の大盛堂を読破しました。普通のひとは本を読破するけれど、湯浅は本屋を丸ごと読破する」