トランプ氏の「コロナ克服パフォーマンス」が支持者を熱狂させている。本人は治験段階の新薬を使う一方、支持者たちはマスクなしで密集させる。その「人間の盾」は、同氏の失政や情報隠蔽への批判を防ぐために犠牲になるのだろうか。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏が、アメリカ人の憂いを伝える。
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「この大統領は自分自身がフェイクだよ!」と電話口で叫んだのは、ニューヨーク郊外の閑静な田舎町に住む長年の友人P氏である。ウォール・ストリートの大手商業銀行に勤めるエリートだ。電話の話題は、トランプ大統領がホワイトハウスで開いた集会について。
アメリカでは、コロナウイルス感染症の拡大はいまだ減速していない。にもかかわらず、トランプ氏の集会にはマスクも着けない支持者たちが「密」な状態でひしめき合っている。トランプ氏自身もマスクを外し、コロナを克服した強い男であるとアピールして喝采を浴びる。この集会の案内には、わざわざ「マスクを着用しなくてよい」と明記されていた。それが「トランプ支持」の証だとでも言いたげである。J氏が怒るのは、自身の選挙のために、支持者やその周囲の人たちを感染の危険に晒している大統領の無責任さに対してだ。
ある専門家の推計では、もしコロナ危機の初期からアメリカ国民の95%がマスクを着けていたら、死者数は現在の20%で済んだとされる。しかもトランプ氏は、今年1月の段階で、すでにこのウイルスの恐ろしさを報告されていたにもかかわらず、「インフルエンザより怖くない」と嘘の情報を国民に伝えていたことが暴露されている。
トランプ氏と熱狂的な支持者たちは、そうした証拠や証言に基づく報道も情報も、ことごとく「フェイクだ」と一蹴してきた。半年余りで21万人以上の命が失われているのに、いまだコロナの恐ろしささえ認めようとしない。トランプ氏は、公の場に現れる時こそマスクを着けるようになったが、演台に立つと、おもむろにマスクを外し、ポケットにしまい込むのである。その動作には、「ほら見ろ、コロナは怖くない。俺は強い」というアピールが込められている。P氏が「大統領こそフェイクだ」というのは、そうした間違った情報を広めるパフォーマンスに我慢ならないからだ。