今年の出願期限は8月13日で、甲子園交流試合の真っ直中だった。別の高校関係者が語る。
「声をかけられた時点で、正直な話をされます。『野球部としては、合否に関して後押しができません。しかし、受験のサポートは最大限します』と」
AO入試専門の講師や、慶応野球部の女子マネジャーが学校を訪れ、深夜まで家庭教師のようにアドバイスを送る。手厚いサポートがあっても、不合格者が相次いだのだ。
こうした路頭に迷うリスクを冒してまで慶応にこだわるのは、それだけ慶応と、その野球部に魅力があるからだ。
「同じ六大学でも、慶応生の就職先企業は他を圧倒する。不合格の可能性があろうとも、入学を目指す価値はある」(同前)
今年は一般入試に不安を抱いた優秀な生徒が、多くの受験機会を求めて早い時期に実施される慶応のAO入試に集中したことも、球児の不合格が相次いだ要因のようだ。
高橋の決断によって、社会人ナンバーワンの即戦力投手・トヨタ自動車の栗林良吏(愛知出身)の指名が有力だった中日は、やはり地元出身の“金の卵”に乗り換える可能性が大だ。中日の動向次第で、栗林の一本釣りに動く別の球団が出てきてもおかしくない。
高橋の慶応不合格が、波瀾のドラフトの呼び水となりそうだ。
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2020年10月30日号