【著者に訊け】清武英利氏/『サラリーマン球団社長』/文藝春秋/1600円+税
先ごろ誕生した菅新内閣を見てもそう。この国では当たり前のことを当たり前にするだけで改革と呼ばれ、疎まれもする時代を、未だ抜け出せずにいるらしい。
元読売巨人軍球団代表で、現在ノンフィクション作家として活躍する清武英利氏(70)の新作、『サラリーマン球団社長』の主人公は2人。阪神電鉄で航空営業一筋、31年の経験をもつ野崎勝義元阪神タイガース球団社長(78)と、東洋工業(現・マツダ)経理部出身の鈴木清明現広島東洋カープ常務取締役球団本部長(66)である。
共に畑違いの部署出身で、「企業規模のわりに人気も影響力も絶大な子会社」に転出した点でも共通するが、「野球界が近代化を迫られ、巨人による一極支配が問題視されてもいた2004年当時、お二人がその場に居合わせたのは決して偶然ではなく、時代の要請もあったと僕は思います」と清武氏は言う。
自身、数々の改革を手がけながら挫折した、新聞社社会部記者からの元出向組だけに、彼らの苦悩にこれほど肉薄できたのだろうか。世の中、やはり当たり前で真っ当なことほど、実現が難しいものはないらしい。
「実は僕が最初に考えた書名は『阪神マネー・ボール』だったんです。ブラッド・ピット主演で映画化もされた『マネー・ボール』の阪神版です。BOS(=ベースボール・オペレーション・システム)を日本で初めて採用したのが阪神であり野崎さんだった事実を、いつかきちんと調べてみたくて。あの反中央で泥臭い阪神がなぜBOS?って(苦笑)。
それと同時に、球団の仕事に腰掛けどころか一生を費やすことになった鈴木さんの苦闘も同時代の記録として書いておきたかった。置かれた場所でただ咲くんじゃなく、より強く生きた代表格が、僕はこのお二人だと思うのです」
BOSとは各選手の1戦あたりの貢献度を数値化し、チーム編成に生かす、客観的評価システムのこと。だがその導入が、勘や経験を重視してきた職人気質の職員から反発を招くのは必然だった。阪神では導入からまもなく、人事的事情から計画が頓挫してしまうのだ。