ライフ

壇蜜 岡本太郎初の彫刻に感じた「直感的なかわいさ」

岡本太郎1959年作『動物』。レジャー施設に設置するため遊び心をくすぐる無邪気な造形が生み出された

岡本太郎1959年作『動物』。レジャー施設に設置するため遊び心をくすぐる無邪気な造形が生み出された

 美術史家で明治学院大学教授の山下裕二氏とタレントの壇蜜という、日本美術応援団の2人が、日本の美術館の常設展を巡るこのシリーズ。2人は今回「川崎市岡本太郎美術館」を訪れ、岡本太郎の初期の彫刻作品を目の当たりにした。

壇蜜:この子はなんともいえない愛嬌があって目を奪われます。見ているとだんだん好きになっちゃう。

山下:『動物』は岡本太郎が初めて手がけた本格的な彫刻です。彼は後ろ姿が気に入っていたそうですよ。

壇蜜:嬉しいと尻尾を振りそうで愛くるしい。太郎さんの彫刻が不思議なのは見たことがない物体でも違和感がないところ。自分の記憶にないものを前にすると不気味に感じるのが普通ですが、それよりも直感的にかわいいと感じるんです。

山下:見慣れない不気味さがあっても、太郎が創り出す造形はかわいくもある。

壇蜜:どこか人間味があるというか、まったく話が通じない相手には見えないんです。『若い時計台』もかわいいなぁ。個性的な丸みも理由のひとつでしょうか。

山下:丸みは太郎の人間味にも通じると思います。太郎はダイナミックな身振りを交え情熱的に言葉を紡ぎますが、作品や文字の独特な曲線のリズムは彼の動きそのものにも感じられます。

壇蜜:“芸術は爆発だ!”と弧を描く動作もとげとげしくなく仕草にやさしさを含んでいる。太郎さんの人格や思想がどう形成されたのか、作品を知るほど生い立ちにも興味が湧きます。

山下:小説家で歌人の母・かの子の影響は濃かったと思います。川崎市岡本太郎美術館は太郎と漫画家の父・一平、かの子の芸術を顕彰する美術館で、太郎を生んだ両親の歩みを辿る展示も設けられています。

◇川崎市岡本太郎美術館
【開館時間】9時30分~17時(最終入館16時30分)
【休館日】月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日にあたる場合は開館)、年末年始、臨時休館あり
【入館料】一般500円(~10月23日)※展覧会ごとに異なる
【住所】神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5生田緑地内

【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める、日本美術応援団長。

壇蜜(だん・みつ)/1980年生まれ。タレント。グラビア、執筆、芝居、バラエティほか幅広く活躍。近著に『結婚してみることにした。壇蜜ダイアリー2』(文藝春秋刊)。

■撮影/太田真三 取材・文/渡部美也

※週刊ポスト2020年10月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》週刊ポストが1年前に託された最後のメッセージ「私の人生は野球に始まり、これからも常に野球とともにあります」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは(イメージ)
中受で超難関中高一貫校に入学した「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは「腹痛と下痢を繰り返し、成績は最下位クラス…」《エリートたちの発達障害》
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン