緑豊かな公園の中心に建つ、巨大なコンクリート建築物。中に入ると、広々としたロビーにそびえ立つ石碑が目に飛び込んでくる。そこに刻まれた文字は、「中国釣魚島(※尖閣諸島のひとつ、魚釣島の中国名)」。ロビーすぐ脇の第一展示室では、「釣魚島が中国固有の領土である証拠」とされる、明・清時代の文献が並ぶ──。
これは、10月3日に中国政府が立ち上げた、インターネット上の「デジタル博物館」だ。
「3Dで作成された博物館の内部をユーザーはゲームのように移動して、各部屋の展示物を自由に見て回ることができる。IT先進国だけあって、完成度は高いと感じます。このバーチャル空間には“解説員”までおり、クリックすると“尖閣は中国のものだ”とする歴史的経緯を話し始めます」(中国に詳しいジャーナリスト・西谷格氏)
博物館内は第一展示室から第三展示室まであり、第二展示室では「日本が尖閣を盗んだ」とする“証拠文書”の数々を壁一面に展示。第三展示室では、中国政府による巡回警備の実績や、「台湾、香港、マカオや海外の同胞たちよ、ともに釣魚島を守ろう!」というスローガンも掲げられている。
いうまでもなく、尖閣諸島は歴史的に見ても日本固有の領土。デジタル博物館内で示された文書は、釣魚島の記載がある明時代の航路図「順風相送」や、明治時代の沖縄県所属の島嶼を示した「沖縄県管内全図」などだが、尖閣問題を長く取材してきた報道写真家の山本皓一氏はこう語る。
「『順風相送』は単に他国領土も含めて中国名で記載した地図で、そこに釣魚島の名が記載されていたから中国領土というのはとんでもない拡大解釈です。中国は『順風相送』を1403年著としていますが、1570年に開港した長崎港のことも記載されている滅茶苦茶なもの。また、1918年に中国漁船が魚釣島に漂着した際、船員を救助した日本人島民らに中国は感謝状を送っており、文面には遭難場所として『日本帝国沖縄県八重山郡尖閣諸島』と明記している。その他、展示された資料は過去に専門家が根拠を否定した物ばかりです」
加藤勝信・官房長官は5日、外交ルートで抗議し、サイトの削除を求めたことを明かしたが、中国外務省は、「日本にどうこう意見を言われる筋合いはない」と反発した。
ネット空間でも中国による“領土侵略”が始まっている。
※週刊ポスト2020年10月30日号