最近まで、そうした荒唐無稽な陰謀論は、一部の狂信者以外からは無視されてきたが、コロナ危機による社会不安のなかで迎えた大統領選挙の影響で、にわかに支持者を広げている。上記のように、各界のリベラルな指導者たちによって世界が支配され、児童の人身売買が進んでいるというQAnonの「理論」に尾ひれがついて、トランプ氏はそれを粉砕するために軍の上層部から白羽の矢を立てられて4年前の大統領選挙に立ち上がったヒーローだと見なされるようになったのである。
QAnonの支持者たちは、トランプ氏が「17」という数字を出すと、それは秘密のメッセージだと盛り上がり(アルファベットの17番目がQだから)、トランプ氏がピンクのネクタイを着ければ、それは人身売買された子供が解放されたサインだと受け取る(子供の誘拐を「コードピンク」と呼ぶ隠語からの連想)。
ネット上の都市伝説だと笑ってはいられない。ジョージア州の下院議員選挙で当選が確実視されているマージョリー・テイラー・グリーン氏はQAnonの信奉者であると公言しており、トランプ大統領は同氏を「未来の共和党のスター」と称賛している。グリーン氏はアメリカで最も抑圧されているのは白人男性だと主張し、支持を広げている。
トランプ氏自身、QAnonについてコメントを求められても明確に否定することはせず、代わりに「小児性愛を撲滅する」などと、逆にQAnon信奉者を煽っている。さすがにこの陰謀論が広がることに懸念を抱いたTwitterやFacebookなどのSNS大手は、この数か月の間に関連する投稿やアカウントを非表示にするなど対策に乗り出したが、そうした対抗策自体が、信奉者からすれば陰謀論の正しさを証明するものと解釈されるのである。
トランプ陣営は、こんな集団さえ再選のために利用しようとしている。大統領選挙がどのような結果になっても、アメリカの人心と社会が深く傷つくことは避けられない。