キム・スヒョンは、除隊後の初主演作として同作を選んだ理由について「ヒューマンヒーリングドラマだから」、「ムン・ガンテが抱いていた心の傷を表現し、その傷を治癒していく過程を通じて共感を得たかった」と語った。実際に韓国では、「最高の癒しドラマ」と称賛され、ケーブルテレビでの放送だったにもかかわらず、放送期間中高い視聴率を維持し、韓国の幅広い年齢層の視聴者の心をくぎ付けにした。

 同作は、家族だから全てを許して仲良くすべき、親孝行すべきといった、韓国ドラマにありがちな展開やシーンがない。伝えているのは、「あなたはあなたのままで良い。人と違っていても、“サイコ”でも大丈夫」というメッセージだ。サイコと聞くと、日本ではサイコパスや精神疾患を持つ人という印象が強いが、韓国では個性が強い人、周りに流されない人、ちょっと変わった人を「あの人サイコみたい」と言うことがある。

 韓国では、家族というだけで多くを強いられる風潮や、周りと同じような水準の生活をし、流行の服を着て、空気を読んだ言動をして…といった同調圧力に疲れ、誰も自分を知らない海外に行きたいと願う若者が増えている。そうした鬱屈した社会の中で登場した同作は、視聴者がドラマを通して自分の傷を振り返り、主人公らと一緒に泣き、心を癒すきっかけとなった。見終わる頃には、自分もありのままの相手を受け入れよう、自分の物差しで人を判断しないように生きよう、という気持ちになれたドラマだった。

 同作のパク・シヌ監督は放送後のインタビューで、「私たちは誰もが少しは狂っています。だから皆サイコです。それでも大丈夫です。私たちはそれでも大丈夫な(良い)人たちです」と話した。これまでの王道的な韓国ドラマとは一味変わったストーリーに、主人公キム・スヒョンとソ・イェジのビジュアルが眩しい映像美も楽しめる『サイコだけど大丈夫』を、ぜひチェックしておきたい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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