音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、圓丈一門の鬼才、三遊亭丈二が生んだ傑作落語『大発生』についてお届けする。
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9月15日の「しゃべっちゃいなよ」で三遊亭丈二が僕の大好きな『大発生』を演るので、配信視聴券を購入した。「しゃべっちゃいなよ」は「渋谷らくご」の番組の一つだ。
『大発生』は、ある島で“中村さん”が大量に発生して島民に被害を与える噺。物語はこんなふうに始まる。
「知事、大変です! 島で中村さんが大量発生しています!」
「それって困ることなの?」
「知事は島の状態を見てないから、そんな悠長なことが言えるんです!」
もともと中村さんはいなかったこの島に半年前、1人の中村さんが現われた。そのうち「最近中村さんが増えたな」と思っていたら、みるみるうちに島を埋め尽くし、田んぼや畑を荒らすようになったという。
「田んぼや畑を荒らさないでくださいと言えばいいじゃないか」
「それが知事、中村さんたちは野生化していて話が通じません」
「じゃあ警察に捕まえさせれば」
「何万といるんですよ! とても警察の手には負えません! 近頃では勝手に家の中に上がりこんで冷蔵庫を開けていたり、天井裏で交尾をしていたりも日常茶飯事なんです」
「中村さんは島で繁殖してるのか!」
対策として島中に“中村捕り”を仕掛け、最初は親中村5人と子中村が8人捕獲されたものの、学習能力がある彼らは二度と捕まらず、逆に島の藤田が全滅してしまった。