昨年10月に88才で亡くなった八千草薫さん(享年88)。遺言書には“自宅をそのままの形で残して欲しい”という内容があったという。しかし、八千草さんが生前住んでいた東京・世田谷区にある豪邸は、10月中旬に解体されてしまった。
八千草さんのように、両親、夫、きょうだい、子供がいない場合、遺言がなければ財産は最終的に国庫に収納され、国のものになる。そこで、八千草さんは周囲の人たちに少しでも恩を返したいと、お世話になった3人に自宅を遺贈したのだ。
本来であれば、この豪邸をそのままの形で売却し、そのお金で3人が相続税を払う予定だったが、コロナ禍の影響もあり、買い手がつかなかった。相続税支払いのタイムリミットが近づき、仕方なく不動産業者に豪邸を売却。その業者が、解体したということだ。都会では、広すぎたり、こだわりのある仕様の家だと買い手がつかないことが多いため、取り壊して更地にし、広い土地を分割して売るのが一般的だ。
一般論として、このような望まぬ展開を防ぐ方法はあるのだろうか。相続実務士の曽根惠子さんが指摘する。
「理想論ですが、八千草さんが生きている間に自分で家を売り、お金に換えておいた方が賢明だったといえます。というのも、住んでいる人が自宅を売ると、売却金額(譲渡所得)にかかる譲渡税が3000万円までは非課税になる特例があるんです」
今回のケースのように、法定相続人ではない人に遺贈する場合は特に注意が必要だ。法定相続人でない人が遺贈を受ける場合、通常の相続よりも相続税が2割加算となる上、法定相続人であればかからない不動産取得税(土地や建物など不動産を取得したときに都道府県が課税する税金)も、それ以外の人には課せられる。また、法定相続人には、「3000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が認められているが、法定相続人以外ではこれも対象外だ。