花や電飾で華々しく装飾された「花電車」が、地域のイベントや行事を盛り上げながら街を走る姿は、1970年頃までの日本各地で見られる風景だった。今でも花電車を毎年、運行している鹿児島市電の運行事情と、都電で再び花電車を見られる可能性についてライターの小川裕夫氏がレポートする。
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年は各地でイベントの中止が相次いでいる。緊急事態宣言の期間中は言うに及ばず、解除後も中止・延期されたイベントは少なくない。規模を縮小して開催されるイベントは数えきれない。
コロナ禍が直撃して経営が苦しいのは、鉄道も同じだ。以前から経営が厳しかったローカル線だけでなく、赤字とは無縁と思われていた首都圏の各線や東海道新幹線といったドル箱路線でも利用者は激減。ここ数か月間は逆境が続いた鉄道業界だったが、ようやく先行きに光明が見えようとしている。
GoToトラベルに東京発着が対象に追加されたこともさることながら、第3セクター鉄道等協議会が鉄印帳の旅を開始するなど、工夫を凝らした需要喚起策の効果が表れているからだ。しかし、鉄道は観光客だけが利用するものではない。
むしろ、地元住民・沿線住民が日常生活で利用する比重の方がはるかに大きい。地元住民・沿線住民の役に立つことこそが、公共交通機関が本来は果たすべき使命でもある。地元住民・沿線住民の需要を取り戻さなければ、鉄道は生き永らえない。
特に、市電は街の中心部に路線網を有するだけに市民の利用率は高い。また、周辺自治体に居住する住民にとっても重要な移動手段になっている。そうした地元住民・沿線住民に頼りにされると同時に親しまれる存在、それが市電でもある。
約60万の人口を擁する鹿児島県鹿児島市にも市電が走っている。鹿児島市電の総延長は約13.1キロメートルで、保有する車両数は55両。2018年度における年間の利用者数は、1100万人を超える。国内で路面電車を運行する事業者の中で、鹿児島市電は有数の規模を誇る。
路面電車と言っても、鹿児島市電は昔ながらの懐かしい乗り物ではない。2002年には低床車を導入し、それ以降も続々と新型の超低床車両を増やしてきた。