【著者に訊け】片野ゆか氏/『着物の国のはてな』/集英社/1500円+税
そもそも着物とは堅苦しくて窮屈なものなのか? だとしたら着物や和装の何が、私たちにそれほど不自由を強いているのだろう?
片野ゆか著『着物の国のはてな』は、そんな着物にまつわるモヤモヤを謎解きさながらに解決してくれる、「着物の国」の解体新書。ちなみに「着物の国」とは、着付けや時節の作法などに多くの〈約束事〉を設け、逸脱すれば〈着物警察〉に現行犯で着方にダメ出しされかねない世界のことだ。
そんな自称〈歴史や伝統〉を重んじる人々の存在こそ、実は着物の世界をキュークツにしている真犯人で、着物自体に罪はなかったと、この近くて遠い国への体験的探訪記を書き終えたノンフィクション作家は言う。
「例えばその着付けルールにどんな歴史背景があるのかを調べていくと、実は確固としたものはなかったのです。つまり正解の根拠もないままに他人の着こなしに口を出す人が着物の国には結構いるのです。それにもかかわらず私たちは“歴史”や“伝統”の言葉を前にすると、つい思考を停止しがちになります。ですがそういうことって、着物に限らずあると思うんです」
発端は洋服生活への飽きと、ふと羽織ってみた亡き母の着物だったという。
「これが驚くほど似合わなかったんです。全体にモッサリして20歳は老けて見え、夫(ノンフィクション作家の高野秀行氏)にも言われました、〈親戚のおばちゃんにしか見えない〉〈なんでそうなる?〉って(笑い)。
実際、私と母では体形も違いますし、私には私に合った色や柄や着こなしがあると後々わかっていくのですが、〈日本人なら誰でも着物が似合う〉と聞いていたのにそれは幻想だったの? と、逆に興味が湧きました。洋服ではあり得ない色柄の面白さに魅かれたこともあり、謎に包まれたこの国に入国してみたのです。
でも、足を踏み入れた途端、『ここからは違う国です、法律も違います』と言われたような戸惑いの連続でした。入国前は『着物は難しくないわよ』とあんなに優しげだった人たちが、急に〈格〉と呼ばれる階級ルールがどうとか、マウンティングが始まる国なのです!」