安倍政権を揺るがした「モリ・カケ」疑惑で、もみ消そうと躍起になる官邸に弓引いて職を追われたとされているのが前川喜平・元文部科学事務次官だ。安倍晋三・首相(当時)と親しい関係にあった加計学園の獣医学部新設をめぐって文科省から内部文書が流出すると、官房長官だった菅義偉氏(現首相)は会見で、「怪文書みたいなもの」と斬って捨てた。すったもんだの挙げ句、前川氏が辞職する時には、「地位に恋々としている」などと個人攻撃とも取れる発言をした。官僚の人事権を握ることで絶大な権力を振るった菅氏にとっては、前川氏のような“もの言う官僚”は許しがたい存在だったことだろう。その前川氏に、菅政権はどのように映るのか。インタビューに答えた。
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安倍政権から菅政権となりましたが、“官邸官僚”が主導する政治体制は変わらないように見えます。ただし、その支配構造には違いもある。
安倍政権では、「安倍総理と側近官僚」と「菅官房長官と側近官僚」という2つの権力が並立する体制だったものが、菅政権では「菅総理と側近官僚」に一本化されたわけです。組織運営の面では、菅総理自身が今も官房長官の役割を担っているようなところがあり、加藤勝信・官房長官は官房副長官のような立場と見たほうがいいでしょう。
安倍政権では、今井尚哉・秘書官、佐伯耕三・秘書官、長谷川栄一・広報官の3人が側近グループのトップとして政府の政策にも影響力を持っていた。安倍総理も彼らの意見を積極的に取り入れ、それを自らの政策として打ち出した。一方で、菅官房長官は霞が関の人事を取りまわすことで官僚を支配した。官僚は人事権を持つ者に付き従うものですから、どうしても安倍総理より菅官房長官に目がいく。官邸の政策を握る権力と、霞が関を牛耳る権力が別々に存在したわけです。