アメリカの政治報道の特徴は、24時間放送のケーブルテレビニュースの影響力が大きいことだ。なかでも、FOXニュース、CNN、MSNBCの3局が視聴率でも報道の量でも抜きん出た存在である。それぞれの局は、ほとんど隠そうともせずに共和党支持、民主党支持に分かれ、かなり露骨に一方に肩入れした報道を流し続ける。背後では莫大なカネも動いていると噂される。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏が、大統領選挙最終盤のテレビ報道合戦をライブ中継する。
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FOXニュースは、オーストラリア出身のメディア王、ルパート・マードック氏によって設立された。現在は堂々とトランプ支持を前面に出していて、共和党・ホワイトハウスと結婚したようなチャンネルだ。民主党やリベラル勢力を認めるかけらもなく、言うことなすことが全面的に、赤裸々に共和党とトランプ大統領だけを認めるケーブルテレビ局である。トランプ大統領などは、FOXをホワイトハウスの広報部門と思っているに違いない。
FOXには、必要に応じ、トランプ大統領が好きな時、いつでも出演できるようだ。同局の人気ニュースショーのアンカーマンであるショーン・ハニティ氏は、トランプ選対本部のチーフ広報官のような存在である。トランプ大統領は彼のショーに何度も生出演し、言いたいことだけ言って去る。まさに側近中の側近といった風情だ。
これに対抗する“左の横綱”CNNは、看板会社からメディア進出して急成長し、アメリカのケーブルテレビ時代を切り開いたテッド・ターナー氏が始めたテレビ局である。筆者は、本拠であるアトランタで彼に会ったことがあるが、ベンチャー精神に富んだ実業家で、実に気持ちの良い人物だった。ハリウッドのなかでもリベラルな立場で知られる女優、ジェーン・フォンダと結婚していたこともある。
そしてMSNBCは、テレビの3大ネットワークのひとつであるNBCとマイクロソフトが共同で設立したテレビ局であり、マイクロソフトのポータルサイトMSNとNBCを組み合せたチャンネル名となっている。これもリベラル寄りで、“左の大関”といったところ。
この3社がアメリカのケーブルニュース市場を支配しており、寡占状態は年々進んでいる。特に今年は大統領選挙の年だから、昨年同期比の視聴者数は、FOXが63%、MSNBCが28%伸び、CNNに至っては172%の増加を記録している。注目すべきは、昨年度はCNNとMSNBCの視聴者数を足しても“右の横綱”FOXに追いつかなかったが、今年第2四半期(6月度)の視聴者数を比べると、CNNとMSNBCの合計は、2割近くFOXを上回っている点だ。引き続き左右両陣営がっぷり四つだが、やや左陣営が押しているという構図がわかる。これは大統領選挙の情勢とも一致する。