水田の給水に使用されるバルブ。多くは真鍮が使われている。

水田の給水に使用されるバルブ。多くは真鍮が使われている。

 暮らしの中に存在しているが、それを盗もうなどと思いもつかなかったものを、金に換えようとする人たちが急増しているのではないかというのだ。確かに、農家が時間をかけて育てたものや神様への供え物をことは罰当たりだという感覚が強く働き、本当に食い詰めた人か、不謹慎なことをゲームのように考えて手を染めてしまう若者など、例外的な人たちによる事件だというイメージが強い。だが、不景気になると椿事が珍しくなくなるというのだ。

 今、我が国……だけでなく世界中がコロナ禍の影響で空前絶後の不景気状態。もしかしたら、例外だと思っていたような犯罪が急増するのか。それにしてもバルブ窃盗は手間がかかりすぎるので、換金に有利なのかと考えると、そうではないらしい。

「鉄鋼系事業者にも聞きましたが、コロナの影響で建設会社の動きも鈍く、鉄の需要も減り、高額では買い取れないとのこと。ヨーロッパでは感染の第二波の兆候が出始めており、このままいけば日本にも波及するでしょう。そうなった時、もう鉄やら金やらが必要というより、直接、金を奪う、ひいては食べ物の取り合いになるんじゃないでしょうか? それこそ、畑から野菜が盗まれたり豚や牛が盗まれたり。そういった事件が全国で頻発する恐れはあるでしょうね。スーパーに暴徒が押し寄せる、なんて外国のニュースでしか見なかったことが現実になるかも」(大手紙社会部デスク)

 犯罪全体でみると、最近、話題になっている事件はごく一部での現象と言われてしまうかもしれない。というのも、警察庁の発表によれば、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響から、刑法犯の認知件数は戦後最小を記録しているからだ。一方で、野菜泥棒や家畜泥棒、賽銭泥棒といった前時代的な犯罪の発生が頻発し、そう思わせるような事件報道が目立つようにもなってきた。

 スペイン風邪が大流行した約100年前の日本では、流行初期に全国で米騒動が起きた。今回は、そのような大混乱は起きないのではないかと誰もが思っていることだろう。だが、じわじわと足もとから常識が崩れ始めているのではないかと、「罰当たり」な事件が起きるたびに思わずにいられない。我々はもうすでに「アフターコロナ」という暗黒世界の序章に足を踏み入れているのかもしれない。

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