テレビ討論会も終わり、大統領選挙は最後の支持呼びかけに入った。討論会での発言が批判されたトランプ大統領は、さすがに反省の色を見せていると報道されたが、数日経ってすっかり元通りになっている。民主党副大統領候補のカマラ・ハリス氏を「社会主義者だ」とレッテルを貼って攻撃し、白人至上主義者と同じ言葉を使ってマイノリティであるハリス氏を批判し、ひんしゅくを買っている。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏が、アメリカの病巣の深さをリポートする。
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アメリカは、この大統領選挙で大きく分断され、傷ついた。この憎しみに満ちた戦いを早く終わらせ、トランプ氏、バイデン氏、どちらが勝とうと、早く落ち着いた正常な日常を取り戻すことが多くのアメリカ人の願いである。
トランプ大統領が誕生してから、アメリカは混乱に次ぐ混乱で、国内政策、外交政策に集中できず、国家として正常な動きが取れていない。どう言おうと、これが4年間最高権力者であったトランプ大統領の責任であることは間違いなく、国家と国民が陥った大きな問題への責任は今後も検証されることになるだろう。
言うまでもなく、最大の問題はコロナである。トランプ大統領のミスマネジメントで、アメリカは史上最悪の感染症禍に陥っている。死者は22万人以上で、経済に与えた損害は計り知れない。安全保障や国際関係も脅かされている。その元凶は、まだ感染者がほとんどいなかった1月下旬から2月初旬には、すでに「空気感染もする極めて危険な致死性のウイルスである」と報告を受けながら、ほとんど何も対処せず、国民には「インフルエンザのようなものだ。すぐにウイルスは消える」と、根拠なき安全デマを広め続けたトランプ氏の言動にある。この事実は、結果の重大さを見ればもはや言い訳できない。
議院内閣制の日本などでは、これだけはっきりと失政によって国民の命と国家の根幹を犠牲にすれば内閣総辞職が当然だろう。しかし、大統領制のアメリカでは、大統領の権限は絶大であり、任期中にその職を奪われることはほぼない。トランプ政権はこれまで、何度も重要閣僚が大統領の施政方針に反対して真っ当な政策を進めるよう進言したが、トランプ氏はそのたびに「Fire(更迭)」を使って政権維持してきた。