10月22日の最後のテレビ討論会以来、バイデン氏の支持が伸び、いったんは、この大統領選挙はバイデン氏の勝利かと見られた。トランプ氏の政治に危機感や嫌悪感を抱く有権者には安心感が広がった。ところがどっこい、情勢は意外な展開を見せている。各種世論調査を独自の分析で平均化して発表しているReal Clear Politics(RCP)の結果は、その後、発表されるたびに反トランプの人たちを不安にさせている。トランプ氏が急激に劣勢を挽回し始めたのはなぜか。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏が分析する。
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アメリカ大統領選挙では、最終盤に劣勢だった現職が挽回すること自体は珍しくない。現職は選挙中にも実際に政治を動かしているのだから、有権者にウケのいい経済対策を発表したり、派手な外交パフォーマンスを見せたりすることができる。それは選挙運動ではなく大統領としての仕事だと言えるから、実際には税金を使ったキャンペーンができるわけだ。これこそが現職の強みである。
しかし、トランプ氏の場合、それはないはずだった。国内、外交ともに大きな成果はなく、特に国内はコロナ問題で危機的状況に陥っている。経済は落ちるところまで落ちる気配だし、肝心のコロナ封じ込めの見通しは全く立っていないのである。トランプ氏にとって良いニュースは何もない。
なのに、である。激戦州の情勢に関するRCPの最新結果を見ていただきたい。現職が最後は追い上げるという傾向を考えれば、これはどう見ても五分五分の勝負である。
ペンシルベニア州:49.6対45.8(バイデン対トランプ、以下同)
フロリダ州:48.0対48.0
ジョージア州:47.2対47.2
ノースカロライナ州:48.4対47.7
アリゾナ州:48.4対46.2
ミネソタ州:48.0対42.0
2つの州では完全に並び、その他も統計的誤差の範囲に入る。
理由は容易に推察できる。第一に、トランプ大統領はフットワークが軽く、キャンペーンに走り回って(一日で激戦州を3か所回る日もある)、行く先々でバイデン氏のことを「好き勝手なことを言う犯罪家族」と罵る。それが成功しつつあるのだ。バイデン氏は家族総動員で怪しげなビジネスマンに近づき、中国の銀行を使って不正な取引をしている、ロシアからも汚い金を受け取っている、とスラスラ演説して観衆を沸かせ、すぐに次の遊説に向かう。演説も日に日に洗練されているようだ(もちろん話の内容が真実かは別問題だが)。
それに対し、バイデン氏は効果的な弁明もしないし、疑惑を否定する証拠も出さずに、ただ無視するか、「そんなことはない」と否定だけする。家族の話は、本来は大統領選挙には無関係だが、ここまで打撃になっているのであれば、しっかりと筋道を立てて無実を証明すべきである。このようなスキャンダルが出れば、すぐに自分から記者会見を開き、堂々と説明するのがアメリカのやり方である。それができないと、どんどん疑惑は真実味を帯びてしまう。いったい、バイデン氏のコミュニケーション・ディレクターは何をやっているのか。