「もう毒はいらない、差別ネタも不愉快だ」──これは笑いの“第7世代”の台頭から巷間語られている、新しい笑いのセオリーだ。萩本欽一のフレンドリーな素人イジり、ビートたけしの超毒舌、タモリのブラックジョーク、とんねるずによる部活的なノリのネタの数々――笑いは世の中とともに進化し消費され続けるものである。
ぺこぱや四千頭身など、新しい笑いのチャンネルで求められているのは、至極安直に言えば「やさしさ」だ。でも、芸において「やさしさ」ってなんだろう? どう演じ、伝えていけばいいのだろう?
「(第7世代は)確かに面白いんだけど、笑いの原点には他者との差を笑いにするっていうのがあるんだよね。コンプライアンスばかりを気にして、それをすべて捨てなきゃいけないのか。ちょっと違う気がする」
これは第4世代として括られる爆笑問題・太田光から筆者が聞いた見解だ。太田は高度経済成長期の演芸ブーム(ここが戦後笑いの第1世代とされている)で活躍した立川談志、漫才ブーム(第2世代)で頭角を現したビートたけしに私淑している。談志とたけしの持ち味は知性に裏打ちされた「毒」であり、どうしても差別してしまう人の本性を抉った笑いだ。そのテイストを存分にアレンジして、太田は現在に至っている。第7世代との笑いの質は大きく異なると、一般的には思われている存在だ。
さて、その太田の人生を物語として上演する試み(『山田雅人かたりの世界 爆笑問題・太田光物語』)が、さる10月23日に座・高円寺2から配信された。
メイン演者は山田雅人。1990年代は森脇健児と並んで関西アイドル芸人的な位置にいた。2009年から「かたりの世界」という、長嶋茂雄から藤山寛美、野球や競馬の名勝負を現代の講談として語る演物を続けている。今回、彼が新たに語るのは爆笑問題の太田光。しかも演じる傍らに太田本人が座るという異例の演出だ。
「あのさ、山田さんが俺のことを語ってくれるのはいいんですけど、その場に俺本人がいていいんですか!?」
冒頭から太田が照れるやら、困ったやらの表情で傍らの山田に訴えた。山田は「御本人に傍で聞いて頂くなんて感激なんですよ」とこぼれんばかりの笑顔を浮かべ、やおら何の前触れもなく太田誕生の話へなだれ込んだ。
山田「太田光は一九六五年、埼玉県上福岡市に生まれた。父・三郎は建築施工を生業に、母・瑠智子はかつて女優を目指していた。で、間違いございませんか?」