映画史・時代劇研究家の春日太一氏による週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・加藤雅也が、初めて舞台に挑戦したときの思いについて語った言葉、そして四年前に中村勘九郎と舞台で共演して気づかされたことについて語った言葉をお届けする。
* * *
加藤雅也は『SAMURAI7』(〇八年)に主演するなど、近年では舞台にも挑戦している。
「四十五歳ぐらいまでは舞台をやっていませんでした。怖くてしょうがなかったから。つかこうへいさんに何回か誘ってもらったこともありましたが、やり切れる自信がない。でも『怖い』とは言わず、『興味がない』という言い方をしていました。
だけれども、どこかでこれを超えないと俳優として飯を食っていけなくなるのではという思いがあった。そんな時に『SAMURAI7』の話が来ました。コマ劇場の主役ですよ。何十年も舞台をやっている人でも立てないコマでいきなり主役ですから、吐き気がしそうでした。
それで、もう一回やり直そうと若い人が通うようなワークショップに行く決心をしました。自分で電話して『勉強したいんですけど』って。ジョークだと思われたみたいです。
僕の中に一番あったのは、見栄とかプライドがあるからダメだと。それを外さないと『俳優』にはなれない。自分はまだ『タレント』の域にいる。
それでも最初はつらいから『なんでこんな所でやっているんだ』と考えることもありました。でも、その思い自体が間違っているんですよね。変なプライドを持っているということですから。それなら若い人たちから『やっぱり凄いな』と思ってもらえるように頑張るしかないと。そう思わせられない不安があるから、変なプライドで自分を美化するわけです」