今年7月、IUCN(国際自然保護連合)が絶滅の恐れがある野生生物を記載した「レッドリスト」に、マグロやニホンウナギに続いて、マツタケを初めて指定した。日本国内の生産量も近年減少の一途をたどっている。限られた環境でしか生育しないマツタケは養殖栽培ができず、農家の後継者不足も相まって、1941年の1万2000トンをピークに生産量は減少し続けている。ここ数年で100トンを超えた年はなく、特に不作だった昨年は14トンだった。
マツタケ農家は自身のノウハウを公開したがらない傾向にあるが、独自の栽培法を確立し、この道60年の栽培技術を余すところなく著書にて公開している人物がいる。長野県伊那市の「マツタケ博士」こと藤原儀兵衛氏(82)がその人だ。
収穫時期は毎朝7時半頃から山に入り、“シロ”と呼ばれるアカマツの周りにマツタケの菌糸が根を張った収穫ポイントを順に回っていく。
「シロからマツタケが自生するまで5年はかかる。その間に下木を間引き、生育環境を整える必要がある。軌道に乗せるまでの準備期間の長さも、若い世代がマツタケ農家を始められない理由にもなっている」(藤原氏)
入山から5分も経たないうちに、次々マツタケが見つかる。枯れた松葉が一面を覆う地面に、ぽこっと隆起した場所が自生するマツタケの目印となる。藤原氏は手際よく収穫し、持参したカゴがみるみるうちにマツタケで埋まっていく。