その後「自主的に返還すれば、加算金などのペナルティは課されない」と中小企業庁が発表。中小企業庁としては「書き損じなど本当のミス」があった人からの返金が相次いだための処置だったようだが、嘘をついて受け取ったので返したいという申し出が相次ぎ、テレビや新聞で報道された。もちろん、中間さんも返還したい気持ちはあるが、入金100万円のうち、すでに80万円以上が手元から消えている。仕事はしているものの、週に3度ほどシフトに入れれば御の字という状況、貯蓄に回そうとしていた20万円を返せば、生活が破綻すると訴える。
「相談窓口に電話し、分割で返却したいといったんですけどね、無理でした。私も被害者なのに、どうしてって感じですよね。僕と同じようにX氏から騙された人が他にもいるんで、みんなで警察にも言いましたよ、でもやっぱりダメでね。警察も役所も、貧乏人とか、被害者には冷たいんですよ」
自身が嘘をついた、という部分は、中間さんの中ですでに無かった事になっているのかもしれない。それくらい、自身の行動に後悔も反省も全く見せないのである。ちなみに、詐取した給付金を、中小企業庁が調査する前に返還していれば「お咎めなし」という訳ではない。中小企業庁が「誰彼から返還を受けた」と警察に報告をすることもないが、受け取った時点で詐欺罪はすでに成立しているため、すでに司法当局が捜査に乗り出している可能性も当然否定はできない。その事を告げると、中間さんは伏し目がちに筆者にこう言ってのけた。
「だからその、僕の事を被害者だってちゃんと取材して書いてくださいよ。取材に協力しているんですから、そこはギブアンドテイクという事で」
後日、そうした意向には応じられない旨をメールすると、中間さんは筆者の電話に出ることはなくなり、繋がっていたSNSもフォローを外された。そして数日経ったある日、中間さんがSNS上で「給付金詐欺被害者の救済」を名乗るアカウントと接触していることに気づいた。
給付金詐欺を働いた人こそが被害者である、とするこのアカウントは、中間さんのような境遇のユーザーの書き込みにいいねや返信をしているようだった。ただし、このアカウントのアーカイブやキャッシュデータを見る限り、SNSを使ったヤミ金業者である疑いが強いものだった。もっとも、現在はそうした投稿は全て削除され、アカウント名もアイコンも全て変えられていたため、よく調べない人にとっては無害な存在にみえているかもしれない。だが実際には、給付金詐欺被害者の救済と銘打ち、法外な利息で中間さんのように返還が難しい人々に金を貸し付ける目的があると思われる。危険だと判断し、中間さんにはSNSを通じて再度忠告をしておいたが、今も返信はない。
「持続化給付金詐欺」は、落ち着いて思考せず、貧困や失業などで通常の判断力が欠けている人々を利用した税金の詐取であることがすでに明白になっている。それでも返還に奔走しようという人や、逮捕されるかもしれないと怯える人々までしつこく狙って最後まで「しゃぶり尽くそう」という勢力もすでに登場している。