いま、「悪女」と聞いて、誰を思い浮かべるだろうか? マリー・アントワネットや則天武后といった歴史上の人物から、最近話題の「あざとかわいい」女子まで。“悪い女”といわれるようなタイプも多様化し、その評価も、ネガティブなものではなくなっている。良くも悪くも、人をひきつける女性といえるのではないか。小説『恐ろしくきれいな爆弾』(小学館)で、“あの人”や“あの出来事”を彷彿とさせる政治家や事件を登場させながら、総理の椅子を目指す46歳の悪女を描いた越智月子さん。痛快“悪女エンターテインメント”を書き続ける越智さんに、悪女の魅力、これからの悪女の条件をうかがった。
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◆人たらしは、どのように人の心を盗むのか
──悪女エンターテイメント3作目となる本作の舞台は永田町・政界です。小泉今日子さんの「現実と物語が頭の中で撹乱され、とてもエキサイティングな読書時間を過ごしました」という推薦文にあるように、現実のあれやこれやを物語として昇華しつつ、福永乙子という恐るべき女性を生み出しました。
越智:私、田中角栄が大好きなんです。あの昭和っぽくエネルギッシュなところが。「高等小学校卒」で裸一貫から総理にのぼりつめたスピード感もすごいし、金権政治の権化と言われつつも、人情味あふれる素顔はとても魅力的。それで、田中角栄的政治家に隠し子がいたら……という発想から生まれたのが、主人公の福永乙子です。
──そもそも越智さんにとって、悪女とはどういう存在でしょう?
越智:「悪女」という言葉と矛盾するようだけど、女であることを強く意識している人は真の「悪女」たりえないと思っています。何か得たいものがあったとき、その過程で女を使うことはあったとしても、それはあくまで手段のため。あのものは使う、みたいな。女であることを唯一の武器にする人は悪女ではない。私が考える悪女は、「男女の枠を超えた野心家」ですね。たとえば、絶世の美女って悪女にはならない。美人それ自体がすでに「枠」ですから。仮に美人と言われていても、それは雰囲気美人。よく見ると、そんなに美人じゃないはず。じゃ、なぜ人は篭絡されるのか。抗いがたく引きつけられ、翻弄されるのか。それは「人たらし」だからと思うんです。
──悪女は「人たらし」。と聞くと、その極意を学びたくなります。
越智:悪女は、結果的に他人のお金を盗むことがある。でも、お金より先に実は心を盗んでいる。しかも、(心を)盗んだあとはしれっとしている。まさに盗人たけだけしい(笑)。