音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、ネットショップでまとめ買いした「立川吉笑ひとり会」から40分の大ネタ『カレンダー』についてお届けする。
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表参道のラパン・エ・アロで毎月第一土曜に開催の「立川吉笑ひとり会」の模様がネットショップ「立川吉笑SHOP」で販売されている。これは「9月の吉笑」「10月の吉笑」といった具合に限定公開のブログ形式でテキストと動画を毎月発信するもので、僕は「2020年下半期の吉笑」をまとめ買いした。
「9月の吉笑」で配信されたのは、『粗粗茶』『DX落語』『カレンダー』の3席。中で『カレンダー』は40分の大ネタで、吉笑の新作の中でも僕が一番好きな噺だ。
都会と隔絶した島。ここでは商店街が毎年作るカレンダーを全島民が使っている。丘の上には大きな日付表示板があり、組合員が交代で毎朝6時に丘の上に行き、日付を変えて会館のカレンダーに×を付けて帰るのが日課だ。一昨年、その脇にLEDデジタル時計も設置された。島民は皆、それを見て暮らしている。
2020年9月5日、会長がふと自宅のカレンダーを見て驚いた。今年は閏年なのに2月が28日までしかない。丘の上の表示板は毎朝付け替えられ、会館のカレンダーにも毎日×が付けられている。ということは今日は9月4日なのか!?
急いで組合員を招集すると、今年のカレンダーを担当した男が「去年のカレンダーで2月が29日まであったから、てっきり今年は28日までかと思って」と弁解する。
「去年も間違ってたのか! 大変なことに……いや待てよ、これで結局帳消しか! 今日はやっぱり9月5日だ。あとは黙って過ごそう」と安堵する会長。去年が多かった分を今年の2月で相殺した形だ。