10月8日に発売されたマツダの新型SUV「MX-30」。昨年、日本でも投入した「MAZDA3」と「CX-30」に続く新たな商品群の第3弾だが、これまでのマツダ車とは趣を異にするクルマだ。MX-30の開発を取りまとめた竹内都美子氏は、マツダ初となる女性の商品本部主査ということでも注目を集めた。紆余曲折があったというMX-30の開発ストーリーを竹内氏に語ってもらった。
――MX-30の開発は4年前の2016年から始まったそうですね。
竹内:私は前年の2015年に車両開発本部から商品本部へ異動し、そこからマツダの新世代となる現在の商品群を見るようになりました。
MAZDA3とCX-30は基本、フルモデルチェンジでしたが、私が託された新型車の開発はネーミングもサイズもデザインもすべて白紙からのスタート。経営層からは「やり方は任せるので、新しい価値を提案してほしい」と言われただけでした。
もちろん従来マツダが蓄積してきたパワーソースを利用するといった選択肢もありましたが、それではCX-30と代わり映えしませんし、しばらく悩んでいました。
そこで、従来の延長線上ではない“新しい価値”とは何なのかを追い求め、デザイナーやプランナー、マーケッター、エンジニアたちと一度、広島の本社を離れ、サンフランシスコやシリコンバレー、ベルリン、日本でも岐阜や大阪、関東方面に出向いてみることにしました。
商品本部に異動した5年前ですとまだ、コワーキングスペースといった言葉もそれほど浸透していない頃でしたが、海外を中心に新生活様式や新たな働き方をリードしている方々にお会いし、お話しを伺いたかったのです。
──社内にこもってばかりいたのでは、クルマに求められている新たな価値も分からないと。世界中を回ってどんな発見がありましたか?
竹内:彼らや彼女らに共通していたのは、単に収入を得るために働くのではなく、世の中に還元したり世の中のためになることに貢献することで生活の糧を得ていたことです。
また、ご自宅にお邪魔したべルリンのビジネスマンは、分厚いまな板を先祖代々からとても大事に使われていた。物的豊かさや技術の高さ、あるいは豪華さではなく、気持ちよく長く使える、優しいモノに囲まれて生活している様子を目の当たりにしました。
私たちの生活は多くの情報や日々進化する技術に囲まれ、より便利で快適になっていますが、その一方で、もっと自然体で自分らしく生きたいと思う人も増えています。そこで、当初はとにかく新技術を搭載したクルマを出すことが新たな価値だと考えて開発に力を込めていた私たちは、そうではないことに気づかされたのです。
クルマを単なる移動手段・道具と捉えるのではなく、停まっている時間や空間もどこか親しみやすくて心が落ち着くクルマとして存在意義を持たせたいと思いました。