アメリカ大統領選挙はいよいよ投票日を迎える。世論調査ではバイデン氏が依然としてリードしているが、トランプ氏の猛追は続いている。日本にいると、なぜこれだけ失政や失言の多いトランプ大統領が今も多くの支持を集めているのか疑問に感じる向きも少なくないだろう。しかし、アメリカには伝統的に左派思想を嫌う土壌があり、今の民主党は特に左派勢力の影響力が増しているために忌避感も強いのである。特に産業界や金融界には民主党政権を嫌う傾向がある。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏が、トランプ支持のウォール・ストリート重鎮を直撃した。
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「トランプが勝つ」――。電話口に出るなり、やや興奮した声を張り上げたのは、大手投資銀行の取締役であるM氏である。筆者の古い友人で、ウォール・ストリートの運用実績のランキングでトップ5%に入るエリート中のエリートである。当然、普段から冷静沈着、クレバーでいかにも頭のキレる印象の男だ。それだけに、感情を隠さない第一声に、少し意外な感じがした。
2016年の大統領選挙に関して、その前年の2015年、筆者は『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』という本を講談社から出版していただき、ヒラリー氏の野望が実現しないと予測した。当時はヒラリー氏が圧倒的に有利と見られていて、筆者は周囲から笑われたものである。そんな時に、乱立していた共和党候補者のなかから、「勝利者はトランプになる。トランプが次期大統領だ」と素っ頓狂な予測をしたのがM氏だった。筆者とM氏は変わり者扱いをされた。いまさら予測が当たったことを自慢したいわけではないし、当時から筆者もそこまで確信を持って書いたわけではない。むしろ、当たりそうもない予想を書くことで、いろいろな分野の専門家たちから、「いや、ノリオは間違っているぞ」という意見を聞きたいと思っていた。
M氏は、トランプ氏の4年間の政治を見ても、変わらずトランプ支持者である。まるでトランプ選対のスタッフのように、現状分析を滔々と語った。
「ペンシルベニアは勝てない。しかし、あとの激戦区は大丈夫だ。必ず勝つ。フロリダもようやく勝利圏内に入ってきた。トランプのどこがいいのかって? 彼以外にコロナ危機を乗り切ることはできない。民主党がこの難局に対処したら、もっと策略的になって失敗するだろう。ワシントン・ポリティクスに毒されている」