阪急阪神ホールディングスの角和夫・代表取締役会長グループCEOが、スポーツ紙で「けじめが必要」と異例の批判をしたことで、阪神タイガースの揚塩健治・球団社長の辞任に発展した騒動は、タイガースのチーム運営にいよいよ「阪急」が乗り出してくるという観測を呼んでいる。2006年の阪急・阪神の経営統合以来、「阪急はタイガースには関与しない」という不文律がついに崩れるのだろうか。
そもそも、村上ファンドに買収されかけた阪神を事実上、救済合併した阪急が、「関与しない」とわざわざ譲歩して経営統合した背景には、両者の古くからのライバル関係があった。同じ地域で電鉄会社としてしのぎを削り、野球界でもかつては阪急ブレーブスと阪神タイガースは関西の雄の座を巡って争った。そして、電鉄の基幹事業である不動産開発でも、やはり両者はバチバチ火花を散らす関係だっただけに、阪急側が気を使った形だった。
特に不動産分野では、もともと不動産を多く所有する阪急が阪神をリードしてきた。その勢いは最近さらに増している。大阪の中心地・梅田では、JR大阪駅の北側、阪急大阪梅田駅の西側に「うめきた」と呼ばれる再開発地区がある。梅田貨物駅跡の24ヘクタールを使った大規模な計画で、阪急はここで商業施設の開発を進めている。また、阪急は新大阪から十三を経由して北梅田を結ぶ新線の事業認可を受けており、JRや南海電鉄が乗り入れるなにわ筋連絡線を利用して関西国際空港までつなぐ新ルートを計画している。「うめきた」開発は、阪急の壮大な拡張計画の屋台骨のひとつでもある。
その「うめきた」の1期エリアには、阪急が関わる巨大プロジェクト「グランフロント大阪」が完成した。3つのタワーを含む4棟の巨大施設からなり、隣接する駅前の区画には、「ホテル阪急レスパイア大阪」が入るヨドバシ梅田タワーもある。梅田の北エリアでは、阪急が着々と勢力を拡大して街の開発が進んでいる。
対する阪神関連施設は阪神百貨店を中心に西梅田周辺に固まっているが、阪急ブランドの北からの攻勢にやや押されている印象は拭えない。