アメリカ大統領選挙は、投票締め切りから30時間ほど経った本稿執筆現在も、6州で当確が出ておらず、トランプ、バイデン両候補とも勝利に必要な選挙人獲得には至っていない。双方から法廷闘争の声も聞かれ、結果が確定するまでしばらく時間を要しそうだ。その泥沼の大接戦のなかで、ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は、選挙当日深夜に起きた“ある事件”に驚いた。
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当然のことながら、大統領選挙の開票速報特番はアメリカでは高い視聴率を誇る。各局とも司会者やゲストの人選、様々な分析や伝わりやすいビジュアルなど工夫を凝らしてこの日に備えてきた。なにしろ、筆者がお世話になっている、ポーランド移民で英語があまり得意ではないクリーニング・レディまでが、深夜まで釘付けで見ていたと眠そうな目で言うのだから、テレビ局にしてみれば4年に一度の高視聴率が約束された人気番組なのである。力が入るのも当然だ。それにしても、アメリカでは彼女のような労働者階級の女性の政治意識が非常に高い。日本ではどうなのだろう。こういう庶民の感覚や力が政治を動かすことは、民主主義にとって大事な要素ではないだろうか。
筆者は今回、これまであまり開票速報を見たことがなかったFOXニュースをじっくり見ることに決めた。トランプ・チャンネルとも揶揄される同局は、選挙直前まで徹底してトランプ支持の姿勢を貫き、バイデン氏と民主党を叩いてきた。選挙特番は午後4時から始まった。投票が終わるのが午後8時だから、前座が長い。投票当日とあって、あからさまなトランプ支持というわけではなかったが、事前調査で劣勢が伝えられていたトランプ氏に遠慮があるのか、選挙とは関係ないトランプ氏へのごますりのようなコメントが多い。ここまでは退屈な番組だと思いながら我慢して見ていた。
午後8時、投票が締め切られると、各州の予測や上下両院議員選挙の情勢など、次々と見通しが発表されて活気づく。これは日本の選挙特番と同じである。しかし、各局見比べても、いずれも結果の予測は慎重だった。それだけ接戦なのだと視聴者にも伝わる。FOXもトランプ氏が勝つとも負けるとも言わないし、CNNも同時に見ていたが、こちらもはっきりした予測は口にしない。
ところが、筆者が思わずソファから身を乗り出して見入ったのは、深夜11時半くらいになって、突然、FOXの予測・分析を担当する男性が、「2016年の大統領選挙でトランプ氏が獲得したアリゾナ州が、今回はバイデン氏の勝利になりそうだ」と、具体的な予測を語り始めたのである。大統領選挙で、各州の結果をこんなに早く明言するのは異例である。