運命の人を探す婚活サバイバル番組『バチェラー・ジャパン』(Amazonプライム・ビデオ)で参加女性のキャラクターが注目を集めたように、男女逆転バージョン『バチェロレッテ・ジャパン』では、参加男性たちそれぞれの愛情表現やバチェロレッテとの向き合い方に関心が集まった。そのバチェロレッテの愛を得ようと集った男性たちのなかから、イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、最終決戦まで残った画家の杉田陽平、通称・杉ちゃんが示した愛される男とは何かについて考えた。
* * *
先日、Amazonプライム・ビデオで配信されている『バチェロレッテ・ジャパン』が最終話を迎えた。誰も選ばれない、という残念な結果に終わったが、個人的に満足できるオチであった。バチェロレッテ・福田萌子、最後に残った黄皓、杉田陽平ともに主役級のキャラクターの好感度が高かったことがその要因だと思う。スッキリしない結果ではあったが、その過程から学ぶ点もあった。特に最後までバチェロレッテを悩まし続けた杉田陽平(通称:杉ちゃん)のふるまいは、世に多く居る非モテ男にとって模範になりそうである。
最近話した友人は「私がバチェロレッテだったら杉ちゃんを選んでるよ!」と微笑み、取材を通して会った『バチェラー・ジャパン』シーズン2の出演者・野田あず沙も「杉ちゃんの萌子さんに対するかけがえのない想いが画面越しに伝わってきました!」と絶賛していた。
番組を通して、杉ちゃんからモテるということはどういうことか、を教えてもらった気がする。
周りで大人気の杉ちゃんを唯一ディスっていたのが、僕と同じく美大出身の友人だった。彼女は杉ちゃんを「男のぶりっこ」と称していた。特にエピソード1のパーティーで一人泣く姿に、わざとらしく非力さを演出する意図を感じ、嫌悪感を持ったそうだ。友人の言っていることの全てに同意できるわけではないが気持ちはわかる。我々のような美大出身者は、杉ちゃんが弱い人間ではないことを知っている。
『バチェロレッテ』は人間性を問われるが、美大にも少し似た部分がある。学期末ごとに行われる講評では、教室で小さな美術展のようなものが開かれる。並んだ学生の作品を教授が一つひとつ評価していく。時間をかけて作ったモノが人前で貶され、教授からの質問に答えられない学生が泣く、こんなことは日常茶飯事だ。人間性がモロに出る作品が評価されることは結構しんどい。
そんな美大で勝ち抜き、「アート界の革命児」とも称されるアーティストになった杉ちゃんはタフに決まっている。また、現在のアート業界で活躍するためにはコミュニケーションは必須だ。アーティストのイメージとしてゴッホのような破滅型の人をイメージする人も多いと思うが、そういったタイプは死後に評価されるもので、生前は無名である。つまり、杉ちゃんは婚約者を見つけること、アーティストとして知名度を向上させて、絵を売りたい!といった2つの野望を持ち、『バチェロレッテ』に出演したと考えられる。
美大出身者はそれを瞬時に読み取れる。それゆえエピソード1で弱い姿を晒して、泣いていたからといって、素直に繊細だの純情そうだのといった人物像で語られることには疑問だ。
クリエーターとは総じて痛い人だ。日常のコミュニケーションだけでは満足できないから、モノを作り、更に自分を知って欲しいと望む。作るモノの精度によって、痛さは見えにくくなるが、基本的にクリエーターとは痛い人と断言して間違いない。
短期間で恋愛をする『バチェラー』では痛さから発するアピール力がプラスに働くことが多い。今回の杉ちゃんだけでなく、シーズン2で勝者となった倉田茉美は絵を用い、ローズを獲得し続けた。日本で作られた『バチェラー』全4シーズンの勝者の内、2/4が絵を描くこと生業としている。